オートクチュールデザイナーの小井戸和芳さん 身近で個性を引き出すデザインを

2019/08/23 10:59 更新


 昨年末、東京・白金台に、オートクチュールのアトリエ「メゾン・コイド」を開設した。デザイナーで代表の小井戸和芳さんは、パリでオートクチュールメゾンの職人として経験を積み、10年からオリジナルの「ドレスインテーラー」に取り組む。30代の若い感性を生かし、ドレスに限らず、シンプルな形のアウターやパンツなど、モダンで身近なスタイルを柔軟に提案してきた。

(須田渉美)

長所を目立たせる

 「服よりも、着る人が主役になるものを目指しています」と小井戸さん。アトリエには、注文のベースになる20型近くのサンプルがある。オートクチュールとはいっても、パリのメゾンが作るようなドレッシーなイメージとは異なり、デザインの主張を感じさせない、スマートで端正なウェアが揃う。「顧客の体形に合わせながら、いかに個性を出していくか。対話をする中で、長所をどう目立たせるか考えて、その人なりのデザインをプラスする」という。

 桑沢デザイン研究所を卒業後、皇室デザイナーの故植田いつ子さんのアトリエに入り、3年間、見習いとして働き、ベテラン職人の元でオートクチュールの基礎を学んだ。その後、渡仏して就職活動に取り組み、公式メゾンの「フランク・ソルビエ」に即戦力として認められた。1年半、縫製職人の一人として働いた後に「エリック・チブシュ・パリ」に移籍。メインのモデリストとして1年半の経験を積み、27歳で帰国。続けることもできたが、「30歳までにはオートクチュールで独立する」思いを貫いた。

 帰国後は、アパレルメーカーの企画に携わり、「流通の仕組み、生地の仕入れ方や縫製工場とのやり取りなど、日本のアパレルビジネスの仕組みを学んだ」。1年ほどして、ドレスインテーラーを立ち上げた。最初は独自の展示会で受注をスタート、縁あって百貨店の催事販売や外商催事の機会を得、顧客作りの足がかりとなった。また、その実績が評価され、15年からサンモトヤマのオリジナルブランドのデザイナーも務めている。

トルソーを肉付けして顧客の体形と同じ形を作り、一人ひとりに合ったパターンを作り上げていく

普段使いでも美しく

 百貨店などで初めて目にした人を引き込む魅力は、特別な場に着用するものだけではなく、日常生活を楽しむスタイルにも着目していることだ。テーラードジャケットやドレスなどのクラシックスタイルと並んで、ライダーズ風ブルゾンやトレンチコートなど、現代女性のワードローブとして定着するアイテムの提案も積極的に行う。常に意識するのは「背中のラインがきれいに見えること」。ノーカラーで肩の位置を若干落としたコートは、着やすさと同時に、すっきり見える作りに工夫が凝らされ、凛(りん)とした印象が際立つ。

 シンプルな形の一つひとつに、美しい立体のフォルムが研究されていて、イタリアやフランス、日本で作られた上質な生地を選んで、自分だけの1着をオーダーできる。仮縫い込みの平均価格は、イタリア製のウール素材を使ったジャケットで20万円ほど。採寸時は約30項目を確認し、一人ひとりのパターンを作成するオートクチュールの手法ながら、欧州ブランドの既製服と変わらない価格帯で提供できているところに、満足度の高さがある。

 中長期的には「若い人材を育てて、パリのメゾンのように独自の職人を抱えたアトリエを作りたい」と考える。完成度を高めるには細かな作りに対応できる縫製職人が欠かせない。技術を培い、後世へと継承していく物作りの形を模索している。

サテンのブラウスに合わせ、同系色の糸が入ったツイードでセットアップの提案も


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