《つくる編・グラフィック》デートシーンまで想像する
ロゴデザイン、カタログ、ショッパー、ネームタグ、ウエアのプリント柄─―これらは、グループ会社のマッシュデザインラボのグラフィックチームが作っている。ブランドのよき理解者が社内にいることは、一貫したクリエーションにこだわるマッシュスタイルラボにとって財産だ。
「これでいい」はない
「こんなに自前でやる会社は珍しい」と、転職組のグラフィックデザイン部チーフデザイナーの阿部一秀は驚く。例えば、カタログだと、フォトグラファーらのキャスティング、ロケハンから、ストーリー仕立ての文章の表現まで手掛ける。コーディネーターは挟まない。ブランドのディレクターやプレスと資料集めに行くなど、アイデアの段階から共有していく。
どう売るかよりも、どう見せるかが判断基準だ。売りたいスタイリングを1ページ目に持っていくのではなく、どういうページ建てだとデザインとして成立するかを優先する。ジーンズのネームタグのデザインも、アイコンとなる女性の前髪のあるなしまで吟味(ぎんみ)して作る。「これでいいや、という言葉は聞いたことがない」
内面まで迫る視点
ブランドロゴは、社長の近藤広幸がデザインする。コンセプト段階からイメージが出来上がっているため、阿部は微調整する程度。阿部が注目するのは、近藤の視点だ。「店やカタログにロゴを配置した時、その空間でどのように見えるかをすごく意識している」という。ショッパーを作る時も、近藤が気にするのは「デートに持って行った時に、彼氏に見られても恥ずかしくないかな」「銀座にいても違和感がないかな」ということ。物そのものだけでなく、ショッパーを持った女性像まで考える。
「うちのブランドを買いに上京した人が、この風景を見たらどう思うだろう」。ある日、パチンコ店が目前にあるターミナル駅で、近藤がそうつぶやいた。そんなことまで気にしなくてもと、周りにいた社員たちは笑ったそうだ。しかし、店を訪れる客の足取りまで想像するからこそ、説得力のあるクリエーションが生まれる。消費者に歩調を合わせるだけでなく、潜在的なニーズに迫る鋭い視線。相手を思う想像力とその角度が、根強いファンを生む。
=敬称略