大阪市福島区周辺は、明治から大正にかけて急速に工業化が進んだ街だ。戦災や近年のマンション開発で、かつての面影は薄れたが、随所に町工場が残る。その一角の大開地区に小さな公園があり、「松下幸之助創業の地」と記された石碑が立っている。
100年余り前、松下氏は妻と後の三洋電機創業者である義弟の井植歳男氏と3人で、ここに松下電気器具製作所を創立した。斜め前は縫製の吉田元工業の本社。さすがに当時を直接知る人はいないが、吉田幸一社長は「うちも松下さんと親密な付き合いがあったと聞いています」
その後、松下は大阪の門真市に事業の本拠を移すが、松下氏自身は大開に本籍を置き続け、創業の地を終生気にかけたという。縁は切れず、03年には福島区が「大開町と松下幸之助に関する事業」委員会を発足。04年に記念碑を建立し、05年からは松下氏の好物であったぜんざいを振る舞う「ぜんざいパーティー」を開催するなど、ユニークな取り組みが続く。
近隣住民へのマスク供給などを背景に、地方の企業が地域社会と共に発展していこうという動きを強めている。自然豊かな環境や産地の逸品を訴えるのも大事。表現は悪いが、著名人や歴史上の人物も大切な「地域資源」。埋もれた資源を上手に活用し、地域性豊かなストーリーを作り上げていきたい。