《めてみみ》超ディープ紀行

2021/12/15 06:24 更新


 村上春樹氏は90年代、ファッション雑誌にコラムを書いていた。その中に香川県でうどん屋巡りをした「讃岐・超ディープうどん紀行」がある。「コムデギャルソン」の取材を固辞した結果、編集者の故郷・香川県の名店巡りを依頼される始末になったと著書で告白している。

 讃岐を駆け足で回りながら、店ごとの味、田んぼの中の店構えや店主の面白さなどを軽妙にリポート。次から次へとうどん屋の看板やのぼりが現れることに驚く。コロナ禍で人出は減ったが、今も「うどん県香川」の存在感は変わらない。

 繊維産業にも誇るべき産地は多い。ただ、訪れた人がすぐに○○の産地と分かる町は少なく、岡山のジーンズ、今治のタオルぐらいだろうか。「○○の町」とアピールしても、実際の物作りの現場が目立たないことが一つの要因だろう。

 奈良の鈴木靴下は2年前、工場に縦2メートル、横16メートルの看板を掲げた。主力商品の「米ぬか繊維」をこの場所で作っていることが一目瞭然。最近になり、同社を含めた複数の靴下メーカーが店舗やワークショップ、靴下博物館的な施設を地元で作る動きを加速し始めた。著名作家の訪問は望めなくても、道行く人の誰もが、何の産地かを実感できることが大切。やや遅きに失した感はあるが、こうした一つひとつの試みが本当の産地活性化につながっていく。



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