《私のビジネス日記帳》コーヒーの5分、「全館カフェ」 JR西日本SC開発社長 竹中靖

2026/05/13 06:25 更新NEW!


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 湯が、白い渦を巻く。香りが、机にひらく。

 打ち合わせの合間。ドリッパーに紙を敷き、挽(ひ)きたての豆に湯をひとすじ。5分。立ったまま、考えない。アロマが立ち、白い渦が沈む。この5分を欠くと、その日の判断が少し傾く。

 北欧にフィーカという習慣があるという。手を止め、コーヒーを飲む。それだけのこと。時にスイーツも添える。けれど、息を入れることは生産性を育てるらしい。急ぐことの裏に、留まる余白がある。

 広島の新駅ビル「ミナモア」を手がけたとき、街に出て同じものを見た。ミナモアのアトリウムには路面電車が滑り込み、人が流れていく。ベンチに腰を下ろしたひとりがコーヒーの香りにふと顔を上げる。通り過ぎず、少しだけ留まる。留まるから、表情がほどける。ほどけるから、会話がこぼれる。これを「全館カフェ」と呼ぶことにした。

 売り場もそうだ。一着を取り鏡と自分を重ね、また別の一着へと手が伸びる。その往復のあいだに接客の合いの手がそっと入る。居心地は商品と同じだけ、選ぶ時間を支えている。 

 リアルの価値とは何かと考える。留まる場所が会話を生む。人がよく選び、よく過ごす。誰かが自然にふるまえる余白を静かに整えておくこと。それもまた仕事の本分だろう。

 事務所では最近コーヒーを淹(い)れる人が増えた。香りが机を渡っていく。いいことだと、思っている。

(JR西日本SC開発社長 竹中靖)

「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。

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