《めてみみ》侍魂

2022/12/14 06:24 更新


 この冬はサッカーで盛り上がった。来年はワールド・ベースボール・クラシックが予定され、野球も話題になりそうだ。野球の日本代表は「侍ジャパン」と呼ばれる。ホッケーの日本男子代表にも「サムライジャパン」があり、以前に名称を巡る議論があったように記憶する。

 山形県庄内地方には「サムライゆかりのシルク」がある。明治維新で武士の座を失った旧庄内藩士たちが山林を切り開いて松ヶ岡開墾場を設立し、養蚕を始めたのがルーツ。文字通り侍のシルクである。その後、鶴岡の発明家が日本初の電動力織機を考案したこともあり、庄内は一大シルク産地となった。

 その後の和装需要の縮小、輸入品の増加で日本のシルク産業は壊滅的な打撃を受けた。直近では、全ての繊維原料の価格が高水準にあるが、特に絹紡糸などの価格上昇は著しい。「もはや素材として扱えないレベル」と新たな悩みが加わっている。

 それでも、新しい芽は生まれる。22年春、松ヶ岡開墾場には販売・情報発信や体験の拠点「シルクミライ館」がオープンした。バイオベンチャーのスパイバーは鶴岡市に本拠を構え、主商品を構造たんぱく質素材に切り替えながら成長している。侍たちが刀をくわに持ち替え、ゼロから始めたことを考えれば、まだ方法はあるはず。形を変えた庄内の侍魂に注目したい。



この記事に関連する記事