映画の楽しみ方は色々あると思います。アクションシーンがある映画をチェックするとか、好きな俳優の出演作を追いかけているとか。衣装に注目している、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
効果を理解し常に意識
女性誌では映画の衣装特集もよく目にします。登場人物の衣装をまねてみたりしたことも一度や二度はあるのではないでしょうか。00年代初頭はロングコートを羽織ると『マトリックス』のネオ(キアヌ・リーブス)のようにちょっとのけぞってみちゃった……という経験が私にもあります。
映画にとって衣装は大きな要素です。映画を楽しんでいる間、観客はそのスクリーンの大半を埋める構成物が衣装であることに必ずしも意識を向けてはいません。ですが、ほぼサブリミナル的に「衣装」は全フレームに存在しています。作り手である私たち映画制作者は、その効果を理解して常に意識しています。
単純に、登場人物が青い服を着ていたら、その人物をカメラが捉えている間中、スクリーンは青く染まります。皆さんが、お気に入りの映画の登場人物たちがどんな衣装を着ていたか、なんとなく思い出してみてください。例えば『マトリックス』のネオ。黄色いロングコートだったらあのシーンはまるで違う印象になりますよね。また、ロングコートでなくショートジャケットだったら、あの名シーンはこれほど我々の印象に刻まれていなかったかもしれません。
登場人物が手に取った
色、素材、デザイン、様々なことに意識を向けて、映画の中の衣装は決められていきます。衣装担当がデザインからおこして作る場合もあれば、既成のものから選んで構成する場合もありますが、私が映画監督としてとても大切にしているのが、衣装と登場人物の関係です。いわゆる「見え方」を重視して衣装を構成する一方、忘れてはいけないのが、衣装は基本的に、その登場人物が自らの手で身に着けたものである、ということです。もちろん他者に着せられている設定の場合もありますが、ほとんどの場合、登場人物が店頭で手に取り、あるいはネットで注文し、あるいは自分でミシンを踏み、あるいは家族が手編みをして贈ったなどなど登場人物が手に取り身につけているものなのです。ですから、私個人の好みを超えて、登場人物の生活に思いを馳せて構成するよう努めています。
来年公開予定の新作『あきらめません』は、大好きなジョン・カサヴェテスの『グロリア』にインスパイアされた衣装が登場します。闘うスイッチを入れた主人公が、意思を持ってその服を選び、まとった瞬間を想像していただけたら幸いです。
(映画監督・大九明子)
