人も企業も順調な時は変化を好みません。危機や行き詰まりを感じないと行動を起こせないのでしょう。自社ブランド「ヌーヴコンフィニ」を立ち上げたのは、既存アパレルとの取引に限界を感じた2000年ごろです。アパレルの発注が他に移れば、すぐに縫製工場の安定操業は難しくなります。空いた生産スペースを自前で埋めなければならないため、背水の陣でオリジナルブランド開発に挑みました。
いろいろと先行投資は大きかったですが、諦めずに自分たちで結果を出そうと試行錯誤しました。そして06年に百貨店との取引がスタートしてから光明が見え始めました。小売り店頭の要望に柔軟に応えていく中で「お受験服」というオケージョン需要にたどり着いたのです。その際、自社の強みを見つめ直すことが大事でしょう。当社は職人技とフットワークの軽さでした。縫製とパターンを突き詰め、美しいシルエットを保ちながら着心地の良さを実現したことが人気につながりました。
現在、工場発ブランドのメリットは大きいと思います。消費者はECで手軽に購入可能だし、便利できれいな都内百貨店に売り場があるにもかかわらず、「工場で購入したい」との声が多いのです。人生の節目を共にする大切な服がどのように作られているか見てみたいのでしょう。昨年、見学しやすいように工場をリニューアルし、ショップも併設しました。作り手の顔が見えることが付加価値を高める時代です。
(ファッションしらいし社長)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。