《私のビジネス日記帳》運命的な出会い 小林学

2023/12/27 06:25 更新


 1988年のパリ。とある小雨のぱらつく土曜日に、クリニャンクールののみの市で異質なオーラを放つ1本の「リーバイス」501XXに出会った。当時はまだ気の利いたレプリカなどは存在していなかったので、古着屋で赤タブのEが大文字ならすなわち高額ビンテージ確定であった。70フランだった。当時1フランは20円。これ以上は申しません。

 よくよく調べてみると、見つけたジーンズは通称47モデルと呼ばれ、極端にステッチが黄変する個体で今の価値なら100万円は超える代物。この運命的な出会いの1本が以後のボクの中の本物の基準となった。

 例えば88年、この年に公開されたチェット・ベイカーの映画『レッツ・ゲット・ロスト』のポスターで若き日のチェットがはく50年代の501と比べてみる。その色艶は紛れもなく同一のオーラを確認。これなのだ! ビンテージの魅力とは憧れの存在と全く同じものを身にまとう喜びなのだ。ボクはその47モデルを携え、歴代のスターたちのジーンズ姿からそのかっこよさの答えを探った。まさかこれがその後35年間のライフワークになろうとは。

 そしてこの年末、ボクのキャリアの集大成的なジーンズが完成した。ジャマイカ島産のいわゆる海島綿のみを使って仕上げた世界初の超長綿の原種ジーンズが登場する。作り手の夢はかなった。しかし一人の男の人生を決定づけたアイテムが70フラン(1400円)だったとは…。リアルな出会いとはこんなものなのだ。

(スロウガン代表)

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