丸喜の藤田社長 双方向のコミュニケーション変わるチャンス

2021/03/15 06:27 更新


 大手皮革卸の丸喜が、持続可能な成長に向けた取り組みを具現化している。藤田晃成社長は、物作りの現場、小売企業と連携しながら変革に挑む。国内の皮革産業に閉塞(へいそく)感が漂うなか、創造性を持って双方に有益な形を見出し、20年5月期は2月に前期の実績を達成した。新型コロナウイルス感染が深刻化した昨年6月、医療従事者への寄付を目的とした「ブルーレザープロジェクト」を始動、業種を超えて支援の輪を広げている。

皮革を扱うプロとして

 ――プロジェクトの経緯は。

 コロナ以前から皮革業界は元気のある状況ではありませんでしたが、ブルーインパルスの飛行など医療従事者に敬意が示されているのを目にし、私たちにも利他主義の余裕がなければいけないと思いました。自身の仕事に置き換え、皮革を扱うプロとして仕事に向き合い、使命感に燃えて頑張ることに改めて気づかされたんです。丸喜は歴史的に一匹おおかみで商売を続けて今があるのですが、私のコミュニティーには同志がいます。社会の一員として、皮革業界の存在をアピールして医療従事者に少しでも役に立ちたい、業界で運動を盛り上げたいと立ち上げました。

 ちょうど展示会のタイミングで、ポスターを作って呼びかけたところ、取引先の靴卸や専門店企業がすぐに賛同してくれました。人を介して輪が広がり、全く接点のなかったアダストリアさんも参加してくださって。それから、ビジネスパートナーの金融機関、物流関連など革を直接扱っていない企業も協力しくださって、地元の城北信用金庫は、待合室にプロジェクトの紹介コーナーを作ってくれました。ポスターの図案は、十人十色の気持ちを1枚の革の形で表現しています。

 店頭では小売企業それぞれにブルーの革製品を揃えて、売り上げの一定金額を寄付に充てたり、革のマスクケースの販売で寄付したりと、様々な形で行われています。寄付は2月に予定しており、ある企業は励ましの贈り物も用意しています。組織にとらわれず、同じ思いを持って、顔の見える範囲でコミュニケーションを取ることで連携できたと感じています。

異なる大きさのハートをちりばめて革のモチーフをかたどった「ブルーレザープロジェクト」のポスターデザイン

 ――今の厳しい局面をどう乗り越える。

 先行きが見通せないところはありますが、革問屋とは何ぞやと原点に立ち返り、足元から再構築していきます。そこにデジタルトランスフォーメーションをどう加味するか。皮革業界に長い人ほどアナログに偏重しがちです。全てを否定はしませんが、時代に合わせて置き換えできるところ、デジタルの仕組みをいかに融合していくかを考えていかないと。今年の目標は、受注・発注・在庫の一括管理をオンライン化することです。当社の倉庫に使いたい色の革がどれぐらいあるか、取引先のパソコンからもリアルタイムで把握できるようにして、2週間ぐらいで商品が回っていくようなシステムを構築したい。社内的にはまもなく試運転を始めます。

 一時は、製品の卸企業が在庫過多に陥って再編が進み、厳しい現実も味わってきましたし、少しでも連携して解決に近づければ。当社の役割として、柱になる材料は常に絶やさず、「安心して使ってください、お待たせしません」という状況を作っておきたい。スピーディーに対応できる安心・安全の素材、納期がいつと答えられるラインを持つことが大事と考えています。紳士靴は、昔からこういった生産計画が出来ていたのですが、婦人靴はトレンドに左右されるので、そういった仕組みがなかったんです。しかし、今のニーズは定番のベーシックが強いですし、見た目の面白さはなくても、安定した商品をタイムリーに供給できるシステムが、この局面において求められていると考えます。

 将来は、革素材とこのシステムをパッケージにしてメーカーを巻き込み、小売りや卸の企業に売り込むビジネスモデルを目指しています。ある紳士靴メーカーとの取り組みは、抗菌、ウォッシャブルなど複合的な機能要素を持たせた革を軸に、そのメーカーの特許製法を生かした靴を作るという具合で進めています。それを婦人靴専門店に提案したところ、ぜひ取り組みたいと乗ってきました。

 何十年と付き合っているメーカーは大事ですが、そこに固執していると、新しいものは投入されません。既存のメーカーにない技術を持ったメーカーと手を組める方法を、パッケージにして売り込むことによって、新しい展開が見えてくるでしょう。余計なお世話かもしれませんが、婦人靴専門店にとっても顧客を掘り起こす一助になると思います。婦人靴とは異なる仕上げ方、履き心地にこだわった底回りの作りなど、生かせる部分はたくさんあります。

 こういった構造の改革をしっかりやっていきます。150年前、軍靴によって日本の靴の産業が始まったときのように、今は転換点です。変われるチャンスですし、将来を担う若手を迎え入れようと思ったら、避けて通れないことです。

グローバルな視座に立って

 ――皮革産業のサステイナブル(持続可能性)とは。

 一つは、LWG(レザーワーキンググループ)の認証レザーでしょう。当社では柱に掲げており、継続的に発展・拡大させていくべく、タンナー企業にもその姿勢を伝えながら普及させていきます。実際、LWGを目指して加工場を新設したティーエムワイズさんは、着実に取引量も増えていっています。場合によっては、現場を取引先にも公開して訴求してきたい。最終的には、分かりやすくどうエンドユーザーに伝えていけるかが大事ですので、販売のプロとの取り組みも考えています。

 先日は、大手小売企業と神戸の靴メーカーと打ち合わせを行いました。ケミカルシューズのメーカーで、本革の靴作りを始めています。私は以前から、その傾向に着目していましたが、神戸の靴メーカーが、本革にチャレンジしていかないと生き残っていけないだろうと、本革を使い出しているんです。ただ、素材の取り扱い方一つ取っても、合成皮革とは異なります。そこをプロの目利きでアドバイスさせていただきながら、一緒に取り組んでいければ。逆に言うと、本革を扱ったことがないので、素直さがあります。革を知っていると手を出しにくい革でも、思い切ってやってみよう、チャレンジしてみようとなるんです。

 サステイナブルを意識していくなかで、素材が革だからいいというわけではありません。工場の人権問題もありますし、グローバルな視座に立って、日本だけではなく、欧州に出しても環境基準に適合することを踏まえた上でやっていかないと。人やモノ、情報は国境もジェンダーも関係なくなっていますし、あらゆる垣根を取り払って通用することをしていかないと。

 それから、私たちは自然の摂理で食肉の命をいただいて、その副産物としての革なんだということを、もっとエンドユーザーに分かりやすく伝える、その作業が必要でしょう。皮革の業界では消費者も知っていて当たり前という感覚があるのですが、そうではありません。あらゆるチャネルを通じて、繰り返し訴求していくことが大事だと思っています。その一環として、レザーソムリエ検定を実施したり、大学や専門学校で皮革学などを教えてたりしています。

 それでいうと、学生たちの半分以上が正しい事実を知りません。「あなたたち、街中のハンバーガー屋や牛丼屋で食べないの?」と聞くと「大好きです」と言う。「その副産物の革なんですよ、革は食べないでしょ?」というと「あぁ~」と納得する。意外と服飾系の学生も知らないんです。授業が終わってからいただくリポートには「びっくりしました。革は副産物なんですね。それまでなんて酷いことをする人たちがいるんだろうと思っていましたが、講義を聞いてちゃんと認識しました」と記入されていることが多々あります。

 今、情報はリアルにネットから何でも出てくる時代です。理解してもらうには、思いをのせて、感情を加えて相手の表情を見ながら伝える。そこは、デジタルに置き換えられないですし、アナログでやっていくことが必要と思います。

 ――教壇に立つ機会が増えた。

 私自身、50歳を過ぎてきて感じますが、やはり、「ファッション大好き」という若者たちがどんどんこの業界に入ってきて欲しい。そのためには、魅力のある世界を作っておかないと。育んであげることも。そういった考えで、学生たちと双方向に向き合う活動をライフワークにしています。今は文化服装学院、杉野服飾大学などで20クラスほど持っています。

 昨年は、独自にエッグレザープロジェクトを始めました。コロナ禍で学校で学べない状況や学費が払えない状況を目にし、「学びの場」を作ろうと。社会に出ると、ビジネスにしていかなければならない厳しさがあります。学校で制作する作品だけではなく、販売を意識して取り組める場を提供できればと考えています。20代の一番若い社員に任せ、学生たちと対峙(たいじ)して進めています。彼自身の成長を促すチャンスにもなるでしょう。そういった育成をしっかりやっていて、次の世代にバトンを受け継ぐ循環を作っていきたい。

ふじた・あきなり 69年東京都生まれ。ヘアメイクアーティストから転身、皮革卸のクリエイティブディレクターとして活躍。18年9月から丸喜の取締役社長、21年度中に代表取締役へ就任予定。現職で日本流行色協会アドバイザリーボード、レザーソムリエ資格の講師、文化服装学院特任講師を担い、小売企業や大学等で皮革の正しい知識の普及に取り組む。

■丸喜

 71年創業、現会長の北沢保氏が義兄と丸喜商店を立ち上げ、婦人靴メーカーやデザイナーに向けて皮革の卸事業を展開。欧州製を中心とした、先見性の高い皮革の仕入れを強みとして事業を拡大、88年に株式会社化して丸喜を設立した。18年には皮革の業界ではまれな事業承継で次世代の経営者にバトンタッチし、早くから持続可能性を見据えた経営に取り組んでいる。日本の皮革産業で認知が進まなかった、国際環境基準LWG認証の皮革を率先して扱い、国内外のLWG認証タンナーとともに啓蒙(けいもう)・普及に努めている。今年8月に創業50周年を迎える。

《記者メモ》

 社長に就任したとき、丸喜の地方での知名度のなさを自覚して、これまでの人脈を生かして大阪や神戸のメーカーに声を掛けたという。結果、昨年は新規で20社ほどの取引が始まった。「この人と仕事をしてみたい」と思わせる藤田さんの魅力は、多様性を尊重し、個人や一企業がどういった可能性を持っているかを判断して商売をオーガナイズできることだ。保守的な考え方の強い皮革業界に身を置いても、「クリエイティブな仕事をしていきたい」姿勢を貫いたことが今につながっている。

 現状の靴の国内消費で、革製と合成皮革製を合わせた国産の比率は1%もない。それを少しでも上げていきたいとの思いがある。前年と同じことをやっていては、縮小する一方。しかし、過去の成功を一度捨てて、発想を転換すれば、新しいものを生み出せるチャンスは広がる。その勇気を持つ意識を自分自身も心掛けたい。

(須田渉美)

(繊研新聞本紙21年2月5日付)

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