三井不動産商業マネジメント大林社長 コロナ後見据え新成長モデルに挑戦

2021/04/10 06:30 更新


 三井不動産でららぽーとをはじめとした多くのSCの開発を指揮、海外でもキャリアを積み上げ、20年4月に同社商業施設を運営する三井不動産商業マネジメント社長に就任した。コロナ禍で未曽有の厳しさに直面するなか、「安心安全な施設運営」を最優先しながら、アフターコロナを見据えた手を打ち始めている。豊富な経験を生かし、テナントと連携しながら、重点課題である「オムニチャネル化の推進」と「新しいリアルモールの価値創造」に取り組む。

豊富な経験と知見生かす

 ――商業施設事業の経験が豊富だ。

 入社して4年間は新規事業部(当時)に配属され、スポーツクラブ事業を担当、89年から7年間、埼玉支店でマンションの開発などを行ってきました。商業施設事業を担当したのは96年からです。ただし、新規事業部時代にスポーツクラブの運営や施設内で販売するスポーツ用品の管理を行い、埼玉支店では大規模再開発事業を担当しました。スポーツ施設の運営や新たな街作りの経験はその後の商業施設事業での仕事にも生かされています。

 96年から16年間、商業施設部門で主に開発を担当しました。最初はららぽーとTOKYO-BAY(当時)で、「ららぽーと3」の開発などを行い、00年に完成させて、サーキット型のモールを作ることができました。その後、3年間は運営課長として、同施設の運営も担当しました。03年に事業グループ長になり、埼玉県のステラタウンやララガーデンつくば、06年に開業するラゾーナ川崎プラザなどの開発に携わりました。三井アウトレットパーク(MOP)入間と仙台港の開発にも関わりました。

 09年にリージョナル事業部長になり、用地の取得を含めてトータルで開発を手掛ける立場となり、MOP木更津、大阪のエキスポシティ、ららぽーと立川立飛、富士見などの開発計画を立てました。

 12年に中国事業部長となり、その後8年間、東京本社から全体を見る立場で海外事業を担当しました。台湾やマレーシアのMOP事業のほか、アジアでの住宅事業にも携わりました。

 ――それまでの経験で得た知見は。

 10年、20年経つと、商業施設を取り巻くマーケットは大きく変化します。周辺の交通網など環境も変わります。開発の観点から言うと、変化に対応するために、顧客目線で施設を作ることの重要性を学ぶことができました。

 海外事業は日本のモノ、ノウハウを現地に持ち込むことを重点としていますが、それをエリアのローカルマーケットとどう融合していくべきかを学んできました。海外事業は現地のパートナーとしっかり取り組むことが重要です。現地での人材育成も不可欠。また、例えば、同じMOPを運営していても、台湾とマレーシアではマーケットが違います。海外事業ではダイバーシティーの重要性も学ぶことができたと思っています。

 ――コロナ禍での社長就任だった。

 着任前に中国・武漢で新型コロナウイルスが拡大し、(海外事業担当執行役員として)情報収集と対応策に追われていましたが、日本への影響はあまりないだろうと思っていました。ところが、その後日本でも感染が広がって、着任早々に(20年4月8日からの)緊急事態宣言が発令された。商業マネジメント社の社長就任にあたり、マーケットと環境が大きく変化している中で、いかにさらなる成長を図るかを考えていましたが、まずはコロナ対策に喫緊の課題として取り組みました。

 各自治体の情報を収集しながら、どの施設を休業し、どの施設を営業するのかを日々検討し、安心安全な状態でお客様を迎え、従業員の人たちに安心して働いてもらうための対策を実施してきました。

 コロナ禍で売り上げが厳しい出店者様の支援にもできる限り、取り組んできました。例えば、緊急事態宣言に伴う臨時休業明けから、ららぽーとを主体としたRSC(広域型SC)で「笑顔でエール」プロジェクトを実施しました。従業員が元気になり、お客様に対して笑顔でいられるようにするため、笑顔のバッヂを配るなどしました。販売面ではオンラインやアプリを活用し、お客様とつながる新しい売り方の支援にも取り組んでいます。地産地消のマルシェや地域の高校生や地元スポーツチームなどと連携したイベントなど地域支援策も強化しました。

基幹施設のららぽーとTOKYO-BAY

来期は「創新」がキーワード

 ――社内の業務運営面での重点は。

 リモート会議や電子化・ペーパーレス化を推進しています。これらはコロナ禍によって加速していますが、コロナがなくても必要な業務改革です。経験したことはお客様や出店者様のためにも活用できると考えています。「永遠の課題」であるES(従業員満足)施策の一環として、ショップスタッフの事務的な作業を軽減するため、デジタルを活用したコミュニケーションツールのトライアルも今、やっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速は大きなテーマです。

 青柳雄久前社長(現会長)が重点に取り組んだダイバーシティー(人材の多様性)の推進も重点テーマ。当社は女性が全社員の約半分を占めます。育休・産休制度などを充実してきました。今後も社員の様々な悩みを共有して、多様な働き方を実現していかなければなりません。女性管理職ももっと増やしたいと考えています。また、商業施設を取り巻く環境が大きく変化する中で、我々自身もイノベーションしていかなければならない。そのため、昨年10月から全社員から業務改革や新規事業などのアイデアを集める「アイデアボックス」を始めました。すでに、様々な案が出されおり、業務改善につなげています。

 ――リアルとオンラインの融合がSCにとっても大きな課題。

 リアルの楽しさをいかにオンラインで表現し、オムニチャネル化を進めるのか。今期はこのテーマにも重点的に取り組んできました。これまでリアルでやっていた演奏会やコンテストなどをオンライン化したり、地域コミュニティーの場作りとして「オンラインママ会」を実施するなど様々な新しい取り組みに挑戦しています。

 オムニチャネル化では自社ECモール「アンドモール」とリアルとの連動、相互送客を三井不動産と連携して促進します。アンドモールは約350ショップが出店し、会員数は300万人を超え、衣料品だけでなく、生活雑貨など取扱商品も増えて「ライフスタイルECサイト」に進化しました。コロナ下での在宅消費の拡大で、売り上げも伸ばしています。昨年12月からはららぽーとなどに出店している一部ショップでリアルの場から情報を発信し、商品を販売するライブコマースを始めました。まだ試験的な段階ですが、手応えは感じています。

 ――来期(22年3月期)の重点は。

 DXやオムニチャネル化の推進などに加え、時代の変化に対応した「新しいリアルモールの価値創造」が重点テーマです。これから、みんなで考えていきたい。

 ららぽーとTOKYO-BAYが今年4月に開業40周年を迎えます。この40年間で、市場と商業施設の形も変わってきました。当社グループとしては昨年に渋谷と名古屋に公園一体型の新商業施設ブランド「レイヤード」を立ち上げ、新しいノウハウの積み上げを始めています。

 これから新しい時代を迎え、オムニチャネル化がますます重要になる。とはいえ、リアルな場の重要性は変わりません。

 新しい価値を表現する上で、「つながり」「融合」が今後のキーワードになると思います。地域と施設のつながり、オンラインとオフラインの融合などがますます重要になります。来期は上海にららぽーとと駅ビル、マレーシア・クアラルンプールにららぽーとが開業予定で、MOP台中港が増床します。人とモノ、サービスを国を超えて「融合」していく「マルチバウンド型」の商業施設運営も進めていきます。

 来期の当社方針のキーワードは「創新」です。英語の「イノベーション」の中国語訳です。日本語に訳すと「革新」ですが、「ピンチはチャンス。今こそイノベーションを起こそう」という意気込みを表現するには「創新」がふさわしいと考えました。

 時代の「半歩先」を行くSCを目指しています。ご出店者様との連携をより緊密にしながら、少し先を見据えた新しいMDと施設を提供していきたいと考えています。

おおばやし・おさむ 62年東京都生まれ。慶応義塾大学卒、85年三井不動産に入り、09年同社商業施設本部リージョナル事業部長。12年中国事業部長兼三井不動産レジデンシャル海外事業一部長、15年執行役員海外事業本部海外事業二部長兼三井不動産レジデンシャル執行役員海外事業部長を経て、20年4月から現職(三井不動産グループ執行役員兼務)。

■三井不動産商業マネジメント

 三井不動産の全額出資子会社で、同社の商業施設とECサイト「アンドモール」の運営を担う。70年1月に船橋ヘルスセンターとして設立。三井不動産の初の本格的SC、ららぽーと船橋(現ららぽーとTOKYO-BAY)が81年4月に開業し、同時に運営を受託、84年に「ららぽーと」に商号変更。13年に現社名となった。20年4月時点の従業員数は1219人、20年3月期の売上高は359億5100万円。ららぽーと各施設やラゾーナ川崎プラザなどの広域型SC、アウトレットモールの三井アウトレットパーク、ララガーデンなど生活商圏型のライフスタイルパーク、都市型のコレドなど計77施設(今年2月1日現在)を運営・管理している。

《記者メモ》

 中学から慶応義塾に在学した「慶応ボーイ」。中学から野球部に在籍し、大学時代は投手として活躍。神宮球場で、その後プロ野球入りした多くの選手と戦った。この経験が「仕事にも生きている」。野球部での練習は厳しく、「粘り強く頑張るなど精神面で鍛えられた」。「仕事は野球と違って勝ち負けを競うものではない。ただし、チームとして取り組むという点は同じ。野球部はグラウンドの選手だけでなく、グラウンド外にいる人たちが集めた情報や下級生への指導などによって成り立っていた。こうした組織力の重要性を学べたことが大きな財産」と強調する。慶応高校野球部OB会では幹事長を務め、「幅広い世代の人たちとのネットワーク構築が大切と感じた。これはSCとしての発想にも通じる」という。

 コロナ禍で業界がかつてない厳しさに直面し、消費者ニーズの変化が加速する中、豊富な経験と知見も生かし、新たな成長モデル構築に挑む。

(有井学)

(繊研新聞本紙21年2月12日付)

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