病院の看護師や患者、見舞客が行き交う石川県済生会金沢病院の売店の一角に「ファッション外来」はある。洋裁師の橋本久恵さんが24年2月に立ち上げた。「病気になっても選択肢を減らしたくない」と、病気や障害を理由に手持ちの服が着られなくなった人向けに、ファッションにまつわる診察・お直しに取り組む。
(森田桃子)
洋裁と病院がつながる
立ち上げから一年、橋本さんのもとには、病院やがんサロンに通う人を中心に約20人が訪れ、約50枚を〝ユニバーサル加工〟してきた。事故の影響で首から下にまひが残る男性が手を上げずに着られるようワイシャツの脇をファスナーに切り替えたり、病気の影響で腕が腫れるという声にはカフスをリブに付け替えたり。

甲状腺がんによる首の手術跡が気になるという声には、Tシャツの首元にギャザーを寄せ、襟ぐりを小さくした。「夏が来るのが嫌だったけれど、これでみんなと揃いの服も着られる」と泣いて喜ぶ人もいた。着せる人にも着る人にも無理のない仕様を対話の中で追求し、提案するのが橋本さんの仕事だ。

橋本さんは元々百貨店のオートクチュールの仕立て師として16年腕を磨いたプロの洋裁師。結婚を機に、病院で売店を経営する夫を手伝うため、自身も店頭に立つようになった。
しかしコロナ禍で売店の売り上げが減少。自分にできることを模索する中で思い出したのが、闘病中の父の姿だった。看病していた母に乞われて、寝たきりの父が脱ぎ着しやすいようパジャマにファスナーを縫い付けたことがあった。
病院の売店で働くことで車椅子の患者をはじめ、身体の不自由な人を目にする機会が増えていた橋本さんは、父とその患者の姿が重なった。過去に偶然聴講したユニバーサルデザインの講義も思い出し、全てが「ガーンとつながった」という。
患者に特化して「オーダーメイドのリメイクをやりたい。市販品を作って売るのではなく、その人が持っている洋服をオーダーメイドでリメイクしよう」と思い立ち、「ファッション外来」を立ち上げた。手持ちの服にこだわったのは「病気や障害があってもその人らしさを失ってほしくない」との思いから。売店の角に〝診察場所〟を設置し、毎週水曜日を外来日とした。徐々に注文が増え、リピーターもついたという。

出張リメイクも
県が運営するがんサロンへの出張もする。ファッション外来の活動が看護師の口コミで広まり、声がかかったことがきっかけだ。月一度サロンに出向き、リメイクを受けるほか、年4回美容師やメイク、フットケア師などとともに「ビューティー部」としても活動する。がんの治療過程で髪が抜けたり爪が剥がれたり、顔色が変わったりして、今までのスタイルが似合わなくなってしまう人もいる。今のその人に合うメイクや服、帽子などをトータル提案する。
橋本さんが目指すのは「病気になってもファッションを楽しめる世界を作る」こと。「病気になるとただでさえ気持ちが落ち込んでしまう。そんな中ここにきて、おしゃれの話をして楽しいと思ってもらいたい」とリアルなコミュニケーションを大事にする。