先日ファッションビジネス学会にて、杉野服飾大学の五月女由紀子準教授との共同調査結果を発表いたしました。テーマは「若者世代のオムニチャネル意識と行動」。今回はこの研究の中から、若者のファッションアイテムの購買行動における意識をご紹介します。
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多くの時間をかけて
スマートフォンの普及やデジタル環境の進化から、ファッションにおける情報収集・購入の手段は多様化しています。これに対応するために、多くの企業が顧客に対して利便性と満足度を提供するためオムニチャネル化を推進しています。
私たちは、若者(私たちの調査対象であるアラウンド20)の購買行動の実態と意識を把握するために、18~23歳の男女400人を対象としたウェブ調査及び大学生20人を対象とした日記調査を実施しました。
まず、情報収集の方法は、インスタグラムがメインツールですが、様々なECサイトもカタログ代わりに活用している人が多くみられました。彼らは日常的にインスタグラムやECサイトを眺めているため、ファッションに関する情報をほぼ無意識に受け取っています。
そしてインスタグラムは「欲しいアイテム」を起点に情報収集をする場ではなく、無意識に取り入れた情報をもとに欲しいアイテムのイメージを作る役割を果たしています。そのイメージに近しい商品をECサイトで発見する、というのが主な流れとなっています。
しかし、ECサイトで欲しいアイテムをみつけても、すぐに購入することはありません。アラウンド20はファッションアイテムの比較検討に多くの時間をかける傾向にあり、そのなかで必ずと言っても良いくらい店舗を訪れていることが分かりました。
これはアラウンド20の「実物を見てから購入したい」「試着してサイズを確かめたい」という意向が強いことが来店動機につながっており、この背景には彼らの自由に使えるお金が限られていて、「買い物で失敗したくない」という意識が関係していることが考えられます。
また、初回の来店時に購入に至ることは少なく、ここから店舗と通販を複数回往復したり、友人や母親に相談し、更に熟考を重ね、絞り込んでいきます。
場所にこだわりなし
なぜ、アラウンド20は比較検討に時間を要しているのか。理由は二つあると考えています。
一つ目は、学生であるため大人よりも自由な時間が多く、比較検討に時間をかけられるということ。
二つ目は、アラウンド20の特徴として、その日の気分や会う人に合わせてファッションを変える傾向があり、「自分のファッションテイスト」を定めていない、もしくは大人ほど定まっていないことが多いため、一つのファッションアイテムを購入する前に「自分に似合うか」を確認する工程を重視しているということです。
また、長い比較検討の後の購入場所について、ウェブ調査では約8割が「店舗で購入」という結果が出ていますが、店舗もECもリアルであるアラウンド20にとって、最終的な購入場所に対する強いこだわりはありません。彼らは「どこで購入するか」ではなく「どうして購入するか」を探すことに注力しているのです。
「購入する理由」を増やすために、リアルとデジタルを何度も行き来しているアラウンド20の実態から、店舗の役割を比較検討のためのショールーミングで終わらせないため、店舗での体験価値の提供が非常に重要であると、改めて実感できる研究となりました。
(繊研新聞本紙12月14日付)