「スモールビジネス(小規模な事業者)でも、柔軟に大手流通で商品を売れる時代が来る」と話すのは、昨年5月に創業したばかりの新興企業、スペースエンジン(大阪市)の野口寛士社長。今年1月にリリースしたアプリを介して実店舗での商品販売を可能にする仕組みを構築し、わずか3カ月で登録販売者(企業)数は2000を突破した。「店は持たずにシェアすればいい。国内で一定のめどがつけば海外に広げ、グローバルなプラットフォームにしたい」と展望する。
(永松浩介)
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スモールビジネスでも
野口さんは、関西学院大学在学中に知人と共同で起業した。アメリカにも子会社を有する名刺管理サービスで、その後知人に譲渡。18年3月に帰国し、5月にスペースエンジンを立ち上げた。
オフラインでの販売を思いついたきっかけは、アメリカ在住時の経験。フェイスブックやグーグルなど様々なネット企業があるエリアにオフィスを構え、そうしたネット企業が一等地でショップを構えたり、プロモーションしているのを見たのがきっかけだ。
「スモールビジネスもオフラインでの販売や販促が大事になるはず」と確信した野口さんは、起業から半年ほどかけて、作り手のニーズの有無をリサーチ。自らもHEPファイブ(大阪市)に一時的に店を構え、検証を繰り返した。
昨年の10月末にはHEP内の6店との取り組みが決まり、同時に、自身のフェイスブックなどで委託販売者を募った。すると、2週間で450社が登録。その後、西宮ガーデンズや阪急三番街、東急プラザ銀座店、デックス東京など販売に協力してくれる大手流通も増えてきた。協力企業に阪急電鉄グループが多いのは、学生時代に起業した会社に阪急不動産系のファンドが投資していた縁だ。
ほかにもブックファーストや紀伊国屋書店、メガネスーパーなどもラインナップしている。11月にはエンジニアを雇い、12月にアプリをリリースした(現在はiOSのみ)。
登録者の多くはスモールビジネスだが、たらみなどの大手も。多くは食品や雑貨、ガジェット、アクセサリーなどの小物類で、アプリのリリースから5カ月ほどで登録者(企業)数は2200を超えた。
ビジネスの仕組みはこうだ。商品が売れた場合、売り上げの35%が店舗、スペースエンジンが15%(アプリ使用料)、出品者が50%となる。店舗は出品者からのオファーを待ち、承諾すれば出品者が商品を送り、店が販売する。出品側のリクエストが通過するのは全体の3割ほど。販売期間は2週間から1カ月が多い。店側には目新しい商品をリスクフリーで仕入れることができる利点があり、出品者は期間限定店とは異なり、販売員を出す必要がない。
鍵は販売店の充実
プラットフォームであるスペースエンジンの事業の成否を握るのは、受け手である販売店舗の充実だ。現在は約600店と登録者に対して追いついていない。「明確な根拠はないが、販売店舗の目標はまずは1000」。それぐらいになれば「プラットフォームが自走してくれるのでは」と期待する。
「バラエティーをもって揃えられるかがすべて」と話す野口さんはこのほど、第三者に店舗開拓の営業を委託する「紹介者制度」を設けた。不動産仲介会社などが動いており、実際に成約もしているという。成約した場合、最長1年間にわたり同社経由の商品が売れた分の5%が入ってくる仕組みだ。5%の原資は同社の持ち出しだが、営業費と割り切っている。
海外での店舗開拓もにらむ。「店を借りずに海外で販売できればいいでしょ?」。作り手と同様に大事にしているというリテール(店)のアップデートにも貢献できたら、と野口さんは話す。
同社はこれまで、シナジーマーケティングの創業者らから4200万円の資金調達も実施。今後も資金調達を重ねて、事業の拡大に弾みをつける。