《ローカルでいこう》越中八尾の「タダス」 全国に眠るきものを洋服にアップサイクル 新しい形で日本の文化を伝える
全国から集まったきものを洋服にアップサイクル――18年5月、富山市八尾町にオープンした、きもののリメイクブランド「tadas」(タダス)のショップ兼アトリエが、インバウンド(訪日外国人)を含む幅広い女性に好評だ。最近はきものを持参してセミオーダーを依頼する人も増えている。富山県を代表する行事、おわら風の盆の町で知られる越中八尾で、日本の伝統文化であるきものの新たな魅力を発信している。
(小畔能貴)
持続可能な一点物
タダスは、地元で観光コンサルティングを行っているオズリンクス(富山市)の原井紗友里社長が新規事業として立ち上げた。本業で海外の商談に臨む際、母親が洋服に仕立て直してくれたきものを着て行ったところ、「世界中の人がほめてくれた」経験がきっかけだ。16年設立の同社は、越中八尾ベースおやつ(OYATSU)を運営し、土蔵造りの古民家を改修した宿泊施設の中で着付け体験などを行っている。17年にテレビ番組に取り上げられ、「家で眠ったままのきものを有効に再利用して欲しい」と全国から400着超のきものが寄せられた。
タダスでは、きものをトップとパンツ・スカートのセットアップにして販売している。一つひとつ異なる、寄付されたきものを使うため、サステイナブル(持続可能)で、一点物という魅力も持つ。生地の段階で洗い張りをしているので縮率は低く、ケアもしやすい。価格は1万5900円から。
当初は既製服として提案していたが、現在はお客が持ち込んだきものをセットアップにリメイクするセミオーダー受注が半分以上を占める。丈などの調整も可能だ。最近も「ハレの場で着用したい」と留袖をドレスに仕立て直す依頼があった。「ちょっとしたお茶会に着てくれている方もいます」と原井さん。
客層で目立つのは、20~50代の女性だ。リピーターが増えており、「知人が着ていてすてきだったので」と、横浜など遠方から持ち込みで来店する客もいる。インバウンドにもサステイナブルな点や、着付けができなくても日本らしいテキスタイルを楽しめる点が好評という。
地元の魅力を発信
リメイクは和裁・洋裁のできる地元の人をパートで雇用している。アトリエでミシンを使い、きものを新しい形へと生まれ変わらせる。きものをほどく工程(一部では洗い張りまで)は、地元の障害者施設に自立支援として委託している。
きものはセットアップ以外にも、チュニック、スヌード、ヘアバンド、ネクタイ、スタイ、あずま袋などへのアップサイクルを提案している。男性向けも意識し、「例えば、ハワイアンシャツにチャレンジして、需要をもっとつかみたい」と話す。
19年7月には、「地元の文化を広く発信したい」との考えから新しい取り組みもスタート。伝統工芸である八尾和紙を製造する桂樹舎(富山市)と協業し、型染めのぬくもりのある意匠をプリント技術でのせたオリジナルワンピースの販売を開始した。
現在の販路は直営店とECが中心。東京の日本橋とやま館や京都にある「ムモクテキ」に期間限定店も開設している。今後、例えば、富山空港や富山駅など地元の玄関口となる場所から制服を受注するなどして、「地域の魅力をアピールしたい」という。