片倉浩チーフが率いるタキヒヨーの企画開発チームは、希少な英式紡績機を活用し、奥深いビンテージの風合いや表情のある生地を作り出している。生地開発の根幹は「お客様や機屋さんに教えてもらい、育ててもらいながら、社内のチームや部署を超えて、支えてくれる人がいること」と片倉チーフは話す。
(小坂麻里子)
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雰囲気とオーラ
企画開発チームは毎シーズン30点以上の英式紡績機を活用したテキスタイルを発表しており、そのうちの10点ほどが「ビンテージシリーズ」だ。
40年代の英軍がインドに出兵した時に着用したグルカパンツ、仏軍の機械工が着用したメカニックジャケット「M41」などヨーロピアンビンテージを再現した生地を揃える。
ビンテージシリーズの企画構想がスタートしたのは21年。学生時代から古着屋でアルバイトをし、海外に買い付けに行くほど古着好きな片倉チーフは「ヨーロピアンビンテージと英式紡績を掛け合わせたら面白いのでは」と考えた。
タキヒヨーの一宮工場(愛知県一宮市)が所有する英式紡績機は本来ウールを紡績するが、超長綿の紡績に挑戦。自然と撚りが強くなり、むらが出るため、ヨーロピアンビンテージの経年変化を含めた〝雰囲気とオーラ〟を実現した。
作り手の思い込め
ヨーロピアンビンテージの再現は深い探求心で行われる。メンバーの私物や取引先が持ち込んだ古着から糸を取り出し、ほぐしたり燃やしたりして撚り本数、番手、原料を分析する。インチメガネで密度や織り組織なども調べるが、分析結果をただ再現するだけでは同じようにならない。
経年変化した風合いも表現するには、原料に麻を混ぜてみるなど、生地に対する深い知見や発想力、柔軟性が求められる。
ヨーロピアンビンテージのタグは製造年や製造会社、原料などの詳細が少なく、深掘りが難しい課題がある。ビンテージ品の中には、織り組織や打ち込み本数で常識にとらわれない作り方がされているものもあるという。
「経糸を双糸にした理由が分からなかったが、文献をあたり、当時のことを調べていくうちに、点と点が線につながることがある」と知的好奇心は尽きない。
ビンテージシリーズを求める取引先は原料や素材にこだわるブランドがほとんどだ。ただ単に古着を再現するのではなく、取引先の求めるものをくみ取り、かっこよさを出す。そのためには素材の特性を生かせる産地の協力が欠かせない。
「機屋さんには手間のかかることをお願いしている。尾州や西脇など、様々な産地に支えられている」「所有する設備、チーム、産地、どれが欠けても生地開発はできない。みんなで作り上げられるもの」だ。
25年秋冬向けはミラノウニカの出展など海外提案をスタートした。今は26年春夏に向けて、ヨーロピアンビンテージの再現を探求し続けている。