前回のリールで開催中のテキスタイルの展覧会、Textimoov! の続きです。
大胆にもパート1で同展のトリを飾るテーマ「宇宙」から紹介してしまったので(その理由はまずはアンリアレイジのコレクションを!とつい)、今回は順番を取り返すごとく「ストリートウェア」と「アクティヴウェア」を。
その前にTextimoov! 全体像を同展のキュレーター、Calorine David キャロリーヌ・ダヴィッドさんに説明していただく方がわかりやすいかも。
「18年の時を経て、初開催以来となる第6回「Futurotextiles」展が、6,000平方メートルの広さを誇るトリポスタルに「Textimoov!」として帰ってきます。本展では、フランス、オー=ド=フランス地域圏、リール都市圏、そして隣国ベルギーを中心に、世界の最新テキスタイルのイノベーションとトレンドを紹介します。パリ2024オリンピック・パラリンピックと連動し、スポーツとイノベーションの相互関係を探り、産業プロトタイプや新素材をアート作品と共に展示します。
展覧会はトリポスタルの3フロアで開催されます。
1階:常に変化する空間で、ストリートウェアと都市の雰囲気を楽しめるエリア。地域のファッションスクールが参加するPop!Cornerもあります。
2階:アクティブウェア、アップサイクル、リサイクル、技術繊維に焦点を当て、革新的なスポーツアクセサリーや衣装が展示されます。
3階:未来的な雰囲気で、月や火星への旅をテーマにした空間。住居、衣服、コミュニケーション、輸送など、テキスタイルに関連する様々な要素を探ります。
現代アーティストたちが、これらのテーマを社会的またはビジョン的な観点から表現します。」
リールの友人たち(ファッション関係者たちではない)に聞くと、この展覧会は市民に愛されているそうだ。
パリのモード展のように地方ではモノグラフ(ひとりのアーティストだけの企画展)は難しいでしょうが、その代わり、みんなにいろいろ見てほしい、という教育的な熱意を感じました。よくまあ、これだけたくさんのクリエイターや素材やコミットメントコレクションを揃えました!と。リールの文化に対するパワーを他都市・地域にも広がりますようにと、願うのです。
ちなみにクリエイターは33人、メゾン・企業は42社、スクールなどは18団体。
1Fの「モード、スポート&イノベーション」では、今やスポーツ選手はファッションアイコンとして注目されている!という文脈から、「ラコステ」をはじめスポーツを起源するブランドはもちろん、「ピエール・カルダン」「ティエリー・ミューグレー」、ナイキ・ラボ x リカルド・ティッシのコラボ、ヴァージル・アブロー、「ルイ・ヴィトン」。
中でもマリーン・セル、コシェ、ステファン・アシュプールによる「ル・コック・スポルティフ」のパリ2024のフランス代表チームのユニフォームなどが、競技場のようなセノグラフィー(展示方法)に囲まれて迫力あり。
そしてパフォーマンスを向上させてきた素材・テクニックをラボラトリー形式で取り上げ、見本市のようで興味深かった。
素材同様、スニーカーもその素材や流行や、クリエイターらとのコラボを歴史絵巻のように展示。ここまでよくわかりやすく、まとめてくれました!とお礼を言いたくなりました。
糸で描く墨絵
同展のテーマに合わせて制作された作品は、インスタレーション、ウェア、ニット、と幅広い。中でも目を引いたのが、墨絵のようなスキー風景。素材はなんと1本の長い糸。これを制作したVéronique Boyens ヴェロニク・ボワイヤンスさんは、自分のカラダを被写体にする写真家で、あることがきっかけとなり糸で立体的な絵画を描いてみようと、カメラを針に変えた。でもお手本になる作品がない。「塩田千春さんの作品は?」と尋ねたところ、「彼女の作品ももちろん見ました。でもひとつの作品を1本の糸を切ることなく、交差させながら絵にしたかった」と、試行錯誤を続け独自の技法を開発。ベルギー人のヴェロニクさんは、現在ノルマンディーのアトリエで、糸によるポートレートや新しい作品に取り組んでいます。彼女のコンテンポラリーなクラフトがどう変わっていくのか、期待したい。
リールよ、もう一度_
パリからTGV(フランスの新幹線)でたった1時間で行けるようになったリール。なのに今まで1度も行ったことがなかったことを反省しています。そのきっかけとなった展覧会Textimoov!よ、ありがとう。今回は文字通り駆け足の移動だったので、いとしメゾン Méert( メール、またはメルツ)の本店にもちょっとだけ顔をだし、「いつも美味しいゴーフルをありがとう」とお礼を伝え、ショコラのエクレールを買い歩きながら食べ(もっと味わいたかった)、次の場所に向かったのでした。リールは、美しい、美味しい、そしてカルチャーな歴史ある都市。リールよ、もう一度。
それでアビアント!(またね!)
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。