ネイキトワインズにみるユニークビジネスモデル(杉本佳子)

2021/03/01 06:00 更新


 コロナが広がった時、まず思ったことの1つは、「コロナ前までサブスクリプション伸びてたけど、需要がかなり減るのでは?」だった。実際、レント・ザ・ランウェーは昨夏、すべての店を閉店した。同業社のレ・トートは同じ頃、チャプタ―イレブン(米連邦破産法11条、日本の民事再生法に相当)適用に至った。定期的に新しい服やアクセサリーが送られてきても、おしゃれして外出する機会は激減している。ファッション系のサブスクリプションが行き詰まることは無理もない。

≫≫杉本佳子の過去のレポートはこちらから

 そうした中、「ネイキトワインズ」というワインの宅配会社を見つけ、昨年12月以来利用している。サブスクリプションとはちょっと異なるユニークなビジネスモデルで、やり方次第ではワイン以外でも取り入れることが可能ではないかと思う。

 かつて、ある人から「今日ネイキトワインズが届くの、楽しみ」というのを聞いたことがあり、そのことが頭の片隅に残っていた。昨年、フェイスブックか何かでネイキトワインズの広告を目にし、複数のワインを購入したい時にリッカーストアで買って帰ってくると重いなぁと思っていたので、試してみることにした。初回は、あらかじめセットになっている6本のワイン139ドル相当が100ドル割引になり、送料とタックス含めて支払う金額は54ドル42セントだった。1本9ドルくらいということになる。この値段なら有難いと思い、注文。届いたワインはどれも美味しかったので、2月に今度は自分で9本選んでオーダーしてみた。

 初回分オーダーの翌月からは、毎月一定の金額(最低40ドル)がクレジットカードから自動的に引き落とされる。しかし、毎月ワインを一定量注文する必要はない。ワインは注文したい時に注文したい量だけをオーダーできる。その際、例えば合計金額が139ドルとして、3ヶ月分、つまり120ドルが口座にあったら、差し引き19ドルのみになる。100ドル以上オーダーすれば送料は無料で、あとは消費税が加算されるだけだ。つまり、ワインのために定期預金をするとか、ワインに使う金額を先払いする、という感覚だ。

 退会したくなったらいつでも会員を辞められるし、その時に残金を返金してもらえる。そして、40ドルは小さなワイナリーをサポートするために使われると聞けば、ちょっといいことをしているような気にもなるだろう。加えて、ワインは店頭に並ぶとした場合の小売価格の6割引きとされている。普段手がでないような価格のワインでも、試してみようという気になる。飲んでみて気に入らなかったら、返金もしてくれるのだ。

 ネイキトワインズの創業者のロワン・ゴームリー氏は南アフリカ共和国出身で、プライベートエクイティ(未公開株式)投資家だった。ゴームリー氏は、ワインの値段はマーケティングと広告のために吊り上げられていると語る。マーケティングや広告に経費を使わず、中間業者も通すことなく、小さなワイナリーがビジネスを維持しやすく、会員は卸値でワインを買えるこの仕組みが、ワイナリーと消費者にとってベストであり、サステイナブルと考えた。ちなみに、ネイキトワインズは会員のことをエンジェルと呼んでいる。つまり会員は、小さなワイナリーに投資するエンジェル投資家という位置づけなのだ。

 ネイキトワインズは、リーマンショックの3か月後にあたる2008年12月にイギリスで創業した。リーマンショックで、「今までと同じことをしているわけにいかない。何か過激に違うことをしないといけない」と考えたというゴームリー氏。まさに、コロナ禍にある今と似たような状況だったのだろう。

 それでも4年後の2012年には3490万ポンドの売り上げをあげ、初の利益として100万ポンドを計上した。ゴームリー氏は、景気後退の最中に新しい会社立ち上げに奮闘してくれた社員と利益を共有することが正しい道として、1人平均35000ポンドを支給したという。

 ネイキトワインズは現在、イギリス、オーストラリア、アメリカで展開し、会員数は現在、グローバルに75万人、アメリカには30万人いる。コロナで経済的に大変な会員もいることから、月ごとに支払う金額を減らしたり、支払いをスキップしたりできるようにしているという。スケールメリットを考えたら、脱会する会員が多少いても大きな影響はないだろう。

 ワインは14ヶ国にある80の小さなワイナリーから仕入れている。サイトでは、市場価格とエンジェル価格、お得になる分、何人の人が試してそのうち何%が「また買う」と答えたかといったデータなど、ワインを選ぶ上で参考になる情報が豊富に示されている。

 ネイキトワインズは集めた会費をワイナリーに出資し、ワイナリーがいいワインをつくることに集中できるようにしているという。

 このビジネスモデル、日本では、例えば自治体でいろいろな産物を扱っている県が取り入れることは可能だろうか。その県の産物を気に入っている消費者たちから毎月定期的に会費を集めて、生産者たちをサポートする。消費者は、その県の産物で定期的に買いたいと気に入っている食べ物やお酒などがあれば、「貯金」しておいたお金を使う時に、雑貨や繊維製品で買いたいものがあるかどうかもチェックして、一緒に買うということもあるだろう。自治体以外でも、何かそんなふうに応用できる余地があるのではないかと思い、紹介するに至った。

≫≫杉本佳子の過去のレポートはこちらから

89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



この記事に関連する記事