ニューヨークに活気が戻ってきた。そのカギを握るのが、ものすごいスピードで進んだワクチン接種、そして誰でもどこでも気楽に受けられる検査だろう。私が昨年のクリスマスイブにPCR検査と抗体検査を受けに行った時は、まだ長蛇の列を覚悟しないといけなくて、病院のオープンの1時間以上前に行き、暗いうちから寒い中並んだ。当時は、寒風に耐えながら数時間並んで検査を受ける人の列があちこちで見られた。しかし今は、人出の多いストリートのあちこちに臨時の検査場が設けられ、並んでいる光景を見ることはまずない。
ワクチンも、3月半ばの時点では、予約サイトに何度もアクセスしてなかなかとれなかった。それが、4月下旬には16歳以上で州あるいは市が運営する会場なら予約なしでワクチンを受けられるようになり、今はその年齢制限が12歳以上までに引き下げられた。今では観光客でも無料で予約なしで受けることが可能だ。ワクチンを受けたい人々は一通り受け終わり、現時点で受けていない人たちは、ワクチンに懐疑的・慎重な人々が多い。当然ながら、ワクチン接種率の増加が鈍っているので、州も市もあの手この手でインセンティブを用意して、ワクチン接種を呼びかけている。期間限定で地下鉄7日間乗り放題のメトロカードを配ったり、ヤンキースまたはメッツの試合のチケットを提供したり、1等500万ドル(日本円で5億4400万円以上)が当たるワクチン宝くじを始めたり。
クオモ州知事は26日の記者会見で、これから5週間の間にワクチンを受ける7歳から12歳の州民は、ニューヨーク州内の公立大学で全額奨学金を得られるクジに参加できると発表した。今、12歳から17歳の間の陽性率が最も高くなっていること、9月の新学期から公立校はすべて対面式授業を復活させることが、この年齢層の接種を促進したい理由だ。クオモ知事は、「抽選は毎週行われるが、毎週それまでに接種した人全員を対象とするので、早く受けた方が当たる確率が高くなる」と呼びかけた。次から次へと新しいインセンティブを出してくることに加え、こうした手法で接種者を増やそうとするのは、さすがマーケティングがうまいアメリカだと感心してしまう。
一方、マスク着用に関しては、CDCが「ワクチン接種が完了している人は、公共交通機関や高齢者施設、病院など一部の場所を除き、室内でもマスクをする必要がない」とのガイドラインを発表し、ニューヨーク州もそれに準ずると発表した。しかし、現時点では多くの店が依然、店の入り口に「マスク必須」のサインを掲げている。実際店の中に入ると、販売員もお客もマスクをしている。それでも、若干の変化が見られ、過渡期にあることが感じられる。
例えば、ブルーミングデールズは「マスク着用をお勧めしています」のサインを掲げている。
アッパーウエストサイドにあるこの靴屋は、「CDCの推奨を分析しているところです。当面は、すべての従業員とお客さんに店内でマスク着用を義務付けます。ご協力ありがとうございます」と、マスクポリシーを提示している。
メンズウェアブランド「アレックスミル」のソーホーにある直営店は、「フェイスマスクを着用してください。持ってない?ありますよ!使い捨てマスク、聞いてください。喜んで差し上げます」と表示している。
マンハッタンの繁華街では、潰れて空き家のままになっている店舗スペースが目立つ。コロナ以前に戻るのはまだまだ時間がかかるし、いろいろな意味で今は過渡期にあると感じる。
それでも、連日500人以上がコロナで亡くなり、スーパーマーケットで食料品を買うだけで行列し、買ってきたものを消毒していた1年前と比較したら、天と地ほどの違いがある。大変な中をサバイバルしたニューヨーカーたちを癒すかのような新名所も生まれている。
リンカーンセンターはカーネギーホール、ブロードウエイ同様、9月に再開する予定だが、リンカーンセンターの中庭に5月10日、「リスタート・ステージ」がオープンした。芝生が敷き詰められ、小さな子供も安心して遊び回れるスペースだ。コンサートなどさまざまなイベントが行われる他、ワクチン接種を行うワクチンバスが来たり、食料が無料で配給されたりすることもある。
もう1つの新名所は、5月21日にオープンしたリトルアイランド。ハドソン川沿いの13丁目から14丁目の間につくられた「水上公園」で、漏斗を思わせるパーツをつなげたデザインがユニークだ。ファッションデザイナーのダイアン・フォン・ファーステンバーグとその夫でメディア界の大物、バリー・ディラーが建設に2億6千万ドル以上を寄付し、今後10年間のメンテナンスのためにさらに1億2千万ドルを投じると伝えられている。
広さは約9700平方メートルで、緑と花が豊富。セントラルパークから遠いロケーションなので、この界隈で公園でくつろぎたい時にお勧めだ。
野外イベント会場では、6月半ば以降9月まで500以上のイベントが予定されている。
フードコートもある。入り口のQRコードをスキャンしてオーダーし、用意ができたらピックアップに行けばいい仕組みもある。
9.11を体験したニューヨークは、コロナでさらに大変な経験をしたが、この街の「転んでもただで起きない」逞しさに励まされるニューヨーカーは多いのではないだろうか。治安はまだ悪く、観光客が安心して戻って来れるにはまだ時間がかかるが、復興への道のりを着実に歩んでいるといえるだろう。
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)