フィジカルショーが復活した2022年春夏ニューヨークファッションウイーク。コロナ前と何が違って何が同じだったのか、感染対策はちゃんと行われたのか、今後の課題は何か、時系列で様子を伝えたいと思う。
まず、最初に行ったのはメンズブランドの合同プレゼンテーションが行われる「ニューヨーク・メンズデー」。会場のあるビルの前に、ワクチン接種済証明のアプリと顔写真付き身分証明書(運転免許証など)をチェックするスタッフが並ぶ。来場者は事前に、Clearというアプリにワクチン接種証明書を登録してくるように求められていた。これがニューヨークファッションウイークでのスタンダードだったはずなのだが、実際にはそれではなくて、NYS Walletというニューヨーク州によるアプリに入力しておいたワクチン接種済証明を見せて通過することの方が多かった。トム・フォードは事前に、Clearでは受け付けないとメールで知らせてきて、ワクチン接種済証明をメールで送ってから正式な招待状がメールで届く形だった。ただ、今回はニューヨーク在住者が中心だったと思うのでそれでよかっただろうが、今後海外からの来場者たちが来られるようになった場合、海外在住者は同じアプリが使えないことが予想されるのではないだろうか。在ニューヨーク日本国総領事館がニューヨーク市に問い合わせたところによると、日本のワクチン接種済証明の受け入れの最終的判断は事業主(施設側)に委ねられるという。日本からの来場が可能になった時点で、ワクチン接種済証明提示がスムーズにいくのだろうかとちょっと気になった。ちなみに、まずワクチン接種証明と身分証明書を見せて、そこを通過したら招待者リストに名前が載っているかどうかのチェックをされるのが基本のパターン。ただでさえ、あまり効率がいいとはいえないニューヨークの入場システムだが、今までよりさらに時間がかかることになった形だ。
プレゼンテーションは、コロナ前とまったく変わらず行われた。スタンのプレゼンは、中心にキルトをチクチク縫うおばあさんが座っていた。
テディ・ヴォンランソン。ソーシャル・ディスタンシングという言葉はどこへ?という感じだ。ちなみに、会場に上がってくるまでのエレベーターでも、密なくらい人が乗ってマスクしないでしゃべる来場者たちがいて、「ああ、黙ってほしい」と内心思った。
ニューヨーク・メンズデーのラウンジもコロナ前とまったく同様に用意されていて、来場者たちが集まって飲んだり談笑したりしていた。ワクチン接種していても陽性になる人もいるので、さっと様子を見るだけにしたが、ふと目に留まったのはエスプレッソマティーニ。「ブルックリンでエスプレッソマティーニが飲める店ベスト10」みたいなランキングが複数見つかるくらい、ニューヨークで流行っている人気カクテルだ。ここでサーブされているということは、やっぱりトレンドなのだろう。しかし、この時は朝10時半。さすがにマティーニを飲む気がせず、早々に立ち去った。
今回、感染への不安を少しでも和らげようとするからか、屋外の会場が多かった。9月だからできたことで、2月は屋外の会場はまず望めない。過去に、リンカーンセンターの中庭やセントラルパークで2月に行われたショーに行ったことがあるが、凍死するかと思った。実際、寒すぎて携帯が使えなくなったことがあったのだ。2月は屋内でも安心してできるような状況になっていることを願うばかりである。というわけで、こちらは初のショーを行った注目の若手、ピーター・ドゥ。ブルックリンのグリーンポイントにある波止場で、摩天楼が背景に広がるロケーションだった。
プロエンザ・スクーラーがショーをしたリトルアイランド。7時15分きっかりに始めると事前に通知があった。iPhoneを見たら、その日の日没予定は7時16分。実はフォトグラファー席を見た時、これだとモデルの顔が逆光になっちゃうと思ったが、日没後のスタートならその心配はないということか。
屋外とはいえ、人はかなり密状態。マスクはしている人、していない人といた。
プラバル・グルンはマンハッタン最南端のバッテリーパークでのショー。照明はこの球状の明かりだけで、ちょっと暗かった。ニューヨークのショーは30分くらい遅れて始まるのが普通。それは今回も同じで、プラバル・グルンのショーは9時に設定されていて、実際始まったのは9時半。ニューヨークは治安が悪くなっているので、あまり遅い時間のショーはしてほしくないのが本音だ。
ガブリエラ・ハーストはいつも12時。そして、お洒落なランチをこんな風に用意している。ウイズ・コロナだからだろう、1人前ずつ取り分けてあって、お皿をさっとピックアップして人ごみを避けて食べることができるようになっていた。とはいえ、警戒する人も多いのではと一瞬思ったが、誰かが食べ始めたら結構多くの人が食べていた。
ガブリエラ・ハーストは元々屋外の予定だったが、この日は小雨が降っていたので、倉庫のような場所で行われた。雨が降っていなかったら、隣接する駐車場のようなスペースでやるつもりだったのではないかと思う。ただし、屋外のショーでこうしたプランBがあったブランドはごく一部。「雨降ったらどうするつもりだったんだろう」と思うような会場が多かった。
ところで今回、来場者へのお土産にマスクを提供したブランドが多く、ファッションウイークで手持ちのマスクが一気に増えた。3.1フィリップ・リムの直営店で行われた展示会では、3色の中から選べるようになっていた。これは嬉しいサプライズ!他に私が行った中では、ヘルムート・ラング、アナ・スイ、トム・フォードでマスクをもらうことができた。
ファッションウイーク中、雨が降ったのは1日だけだったのだが、小雨がぱらつく中ショーをすることになったのは、ジェレミー・スコットがクリエイティブディレクターを務めるモスキーノ。場所はブライアントパーク。小雨でもジェレミー・スコットのショー同様、奇抜なファッションで来場する人が多かった。
渡辺直美さんも!声をかけたら気軽に写真撮影に応じてくださった。
そして、席に着いたら濡れている。まずは椅子を拭いて、なんとか座れるように。
雨でもステージには気合のブランドネーム!
傘をさしながらショーを観る。小雨だからまだよかったが、大雨だったら、本当にどうするつもりだったのか?
チェルシーピアのスケートパークで行われたモンセのショーも、小雨にたたられた。スケートパークの中央に、スケボーをもって登場した若い男性が1人いたのだが、結局そこにたたずんでいるだけで終わった。濡れていなかったら、ショーの最中にスケボーをする演出があったのだろうか。そういえば、数年前の9月、ここでジョン・エリオットのショーがあった。その時は、各席に雨合羽が置かれていた。もしも雨が降ったらこれを着てショーを観てくださいという意図だったのだろうが、その日はカンカン照り。雨合羽は不要で、代わりに扇子か携帯用扇風機が欲しいくらいの暑さだった。
屋内のショーももちろんあった。そして、密度はコロナ前とまったく変わらなかった。これは、レインボールームで行われたマルカリアンのショーが始まる前。マルカリアンは、バイデン大統領の就任式でジル・バイデン夫人が着たことで話題になったブランドだ。なので、一度見ておこうと思って行ったのだが、日本市場には向いていないように思われた。
アリス+オリビアのプレゼンテーションも、コロナ前とまったく変わらない。デルタ株が広がっていることから、ニューヨークでは、ワクチンがすんでいるいないにかかわらずマスク着用を求める店が主流となっている。ここでも本来はマスク着用すべきと思われるが、密状態の中でマスクなしで談笑している人が結構いた。アルコールも出していたので、飲む時はマスクを外すことになるし、そうするとまたつけるという行為に戻りにくいのだろう。
アナ・スイは、フレンチベトナム料理のレストラン「インドシン」で行った。PRを担当するKCDから事前に、「席がかなりきつきつなので、室内でそれだと嫌がる人がいるから、来るかどうか確認したい」と連絡があった。しかし行ってみたら、カクテルパーティー状態で、来ている人たちに警戒感は感じられなかった。
オードブルも自分で手でつまんでとる形式。インドシンは私がニューヨークに住み始めた1980年代の終わりにトレンディなレストランだったが、今でも人気で、特にファッション業界人に根強い人気がある。30年以上も人気を保ってきている一因は勿論美味しいからで、この日出たオードブルも、「やっぱりインドシン美味しい!」と思える味だった。
ショーが始まる直前。広い会場でショーをやっていた時と比べると、数分の一の人数だった。
最終日の朝、サウスストリートシーポートのピア17のビルで行われた、テルファーの記者会見。ここではビルに入る際、ワクチン接種済証明と身分証明書の提示に加え、体温測定も行われた。体温測定もしたところはごく一部だった。
アルトゥザッラのショー会場。一瞬、「お弁当?」と思った。
中身は本で、ところどころにスワッチやデザイン画が挟み込まれていた。なんて手のかかることをしたのかとビックリした。
フー・ディサイズ・ウォーのショー会場は、イントレピッド海上航空宇宙博物館の屋上。戦闘機が並び、背景に摩天楼でなかなかダイナミック。エレベーターは密にならないように1度に4人までと制限され、開始には結構時間がかかった。
トリを飾ったトム・フォードのショーはリンカーンセンター。ショーの前にはテラスでシャンパンがふるまわれた。オードブルはチーズ味のクラッカーで、4枚ずつ小袋に入っているものをピックアップする方法。やや物足りないが、安全性はよりあるといえる。ショーは屋内だったが、テラスへの扉は開けっ放しだったので、窓が開かない場所の屋内より安心感があった。そうした会場は雨でも心配ないので、今後そうした会場の需要は高まるのではないだろうか。
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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)