クーパーヒューイット・スミソニアン・デザイン美術館で、「デザイニング・ピース」(平和をデザインする)展が開催中だ。平和を追求したり構築したりする時に、デザインが果たせる役割を紹介している。ロシアとウクライナの戦争がなかなか終わらない中、なんともタイムリーな展覧会といえるだろう。25ヵ国から40点が集められた。会期は9月4日まで。
平和が脅かされ、平和の構築が求められる状況は、世界のさまざまなところにある。クーパーヒューイット・スミソニアン・デザイン美術館で社会的責任のあるデザインのキュレーターを務めるシンシア・E・スミス氏は、「平和を構築しデザインすることは、結びつき、理解、信頼関係の構築、コミュニケーション、反復が深く関わるダイナミックなプロセスだ」と指摘する。
中高年のファッション業界人なら、60年代に広がったピースマークを覚えているだろう。ユニバーサルに認知されている平和のシンボルだ。元々は核軍縮のシンボルとしてデザインされたこのマーク、ウルグアイの新進グラフィックデザイナーが、明るい色とポジティブなデザインで表現した。ピースマークがさりげなく含まれた、こうした柄のTシャツやドレスがあったとしたら、平和へのメッセージの一つの在り方になるのではないだろうか。
多くの難民がたどり着くギリシャのレスボス島では、地元の住民がサマーキャンプを行っていた場所をコミュニティーが運営する難民キャンプに変え、「セーフ・パッセージ・バッグ」をつくるワークショップを行っている。参加者は難民と地元の人々で、新しいスキルを学びながら、共に働き、ものをつくる場になっているという。バッグはすべて、不要になったライフジャケットとボートをリサイクルしてつくられた。デザインするだけでなく、ものづくりを通じてコミュニケーションを深めることができれば、より平和で友好な関係に近づくことが期待できるのではないだろうか。
このセーフティー・ブランケットは、暴行の被害者に着せて、からだと服に付着したDNAを採取しつつ、安心を提供することが目的という。ポケットにはストレス解消のためのストレスボールが入っていて、着用者がボールを握ってストレスを軽減することが可能としている。安心、安全、癒しに焦点を当てた服というのも、服の1つの在り方かもしれない。
大掛かりな展示物は、このピンクのシーソー。アメリカとメキシコの国境に設置されたシーソーのレプリカだ。
アメリカとメキシコの国境には、アメリカ・メキシコそれぞれのコミュニティーが共同で備え付けた3つのピンクのシーソーがある。壁があっても理解しあえる可能性があること、片側の動きが反対側に直接影響を与えることを示唆している。現地で撮影された映像のテロップによると、乗るのは人間とは限らず、動物や虫の可能性もあるという。遊びながら平和について考えることが可能な遊具といえるだろう。
平和に繋がるアプリもいくつか紹介されている。EUが出資しているアフリカに緑を取り戻すプログラムに関連したアプリは、再植林状況やコミュニティーが所有する土地、葉野菜の生産地などを示す。エジプトでは路上でのセクハラが日常茶飯事とのことで、どこでどのような被害を受けたか情報共有するアプリを4人の女性が開発。その情報をまとめて、どこがセクハラの「ホットスポット」かの位置情報をデジタルマップで共有している。
ファッションは平和産業だ。平和であることがまず必要で、平和でなかったらファッションを楽しむことは気分的に難しい。平和につながるデザインが生み出される時、ファッション業界の企業やブランドがなんらかの形でコラボできたら、それは社会にも業界にも恩恵をもたらすことになるだろう。
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)