21年春夏パリ・コレクションは、ブランドのオリジンをベースにした新作が相次いだ。馬具やレザーのテクニック、ゴシックや中世を感じさせるデザイン、それぞれのブランドの背景を生かして今の時代に焦点を当てている。
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リアルショーか、それともデジタルか。オリヴィエ・ティスケンスは、そのどちらでもないソリューションを選んだ。「何かしらの戦略に従う時ではない。自分の思うままにやればいい。初めて誰かにオマージュを捧げるコレクションでもあるので」とティスケンス。コレクションを制作したマレのアトリエで、ワン・トゥー・ワン(1対1)のプレゼンテーションを行った。
テーマは、熱狂的なファンを持つフランス人シンガーソングライターのミレーヌ・ファメール。都市封鎖中にティスケンスが偶然見た89年のビデオクリップ「ロルロージュ」が、彼女のファンだった当時11歳の記憶をよみがえらせたという。少年時代の「女神」を、あの時の感受性と今をリミックスさせ、本人が言う「ティスケニアン」なシーズンに仕上げた。ミレーヌのキャラクターを表すダークなロングドレス、80年代を意識したメンズライクなアイテムで劇場のワードローブのように構成した。ディアボリック(悪魔のような)とアンジェリック(天使のような)の両極で、官能的な美しさを引き出した。
ホックをアクセントにしたタフタドレスは、フラットなバック、腹部にボリュームをもたせ、芝居がかった中世風のシルエット。バイアスカットで流れるようなボディーラインのシルクサテンのドレスもある。テーラードスーツは、たくさんのタックで女性の体が揺れるオーバーサイズ。ボタン一つ合わせのフェミニンなシルクブラウスを組み合わせた。同アトリエでは10月末までポップアップが開かれている。
パリ・ヴォージュ広場にあるイッセイミヤケのショールームに、東京から届いた箱。その中にはコンパクトに折り畳まれたり、丸められたものがきれいに収納されている。デザイナーの近藤悟史は前回のコレクション発表時、パリに送る貨物の量を目の前に、輸送量減について考えた。そこから生まれたのが21年春夏「アンパック・ザ・コンパクト」。今回ショールームに届いた箱の中身だ。デジタルプレゼンテーションと同時に、ヴォージュ広場ではインスタレーションが行われた。服が2次元から3次元に変化するまでの過程を、モダンアートの絵画やトルソーのように鑑賞する。東京発の箱を開ける(アンパック)驚きや喜びをリアルに体験できた。
アレクシ・マビーユは初のイブニングラインのプレゼンテーションを行った。ロングドレス15点、ダチェスブラウス1点、ベスト1点で構成された新ラインは、マビーユの顧客のリクエストから着想を得たもの。季節感よりも自分の好きなシルエットで美しく装いたい顧客に向けて作った。ノーシーズンのアイデアが、エレガントで魅惑的なカクテルやイブニングドレスへとつながった。シルエットはジオメトリックやトライアングル、サークル、ストレートライン。シグネチャーのリボン結びは肩や細いベルトのようにあしらった。カラーパレットは、クラシックなブラック&ホワイト、グリーン、イエロー、コーラル、パープル、そしてレッド。クチュールラインよりは価格を低く設定、飾りやカラーをカスタマイズできる。
(パリ=松井孝予通信員)