22~23年秋冬パリ・メンズコレクションは思いの外、忙しいスケジュールになっている。オミクロン株が広がったことでピッティ・イマージネ・ウオモはゲストデザイナーのショーを夏に延期、ミラノのスケジュールも縮小傾向だった。パリもまたフィジカルからデジタルへの変更が広がるかと思いきや、1日に6、7と結構フィジカルが多い。スケジュールにはフィジカルとデジタルが混在、最後のイベントは20時からで、嫌がらせのようにその前のフィジカルから2、3時間空くというスケジュールだ。
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〈フィジカル〉
そんな飛び石のショーの一つが、前半戦の見どころ、Yプロジェクトだ。会場となったのは決してアクセスが良いとはいえない宅配業者のデポ。貨物列車の引き込み線沿いに座席が設けられ、ソーシャルディスタンスを保つために距離が取られて途方のない長さのランウェーになった。翌週のオートクチュールウィークに、クリエイティブディレクターのグレン・マーティンズがゲストデザイナーとして手掛けた「ジャン・ポール・ゴルチエ」が発表される。「サカイ」の阿部千登勢に続き2人目。そのティザーとでもいうのか、スーツやシャツ、タイトドレスにはトロンプルイユで裸体がプリントされた。ゴルチエの有名なデザインだ。
全62ルックのスペクタクルショーだったが、その多くがカッティングでボリュームやいびつなシルエットを作り出したもの。ジャージーの中央はつままれてひねられたよう。ジーンズもまたワイヤが入っているのかうねりを見せる。定評のあるニットはノルディック柄の細長いニットをさらに編み上げチャンキーかつラフに仕上げた。今季も年齢層の違う個性派モデルを使っていたが、友達なのかデザイナーのオリヴィエ・ティスケンスの姿も見られた。
アミパリスの会場に足を踏み入れると、聞き覚えのある音が繰り返し聞こえてくる。それはメトロがプラットフォームに入ってくる時の独特の音だ。2年ぶりのフィジカルショーの着想源となったのは、日々メトロで見かける人たち。会場の一部には駅の風景が再現された。とはいえ、コレクションにはその雑多さはなく、以前よりもさらにクリーンなイメージだった。スーツにダブルのコートのアーバンビジネスマン、ビンテージ風のムートンジャケットにはゆったりとしたシルエットのジーンズを合わせるパリジャンルック。タキシードジャケットからレディスのキャミトップまでネオンカラーが主張する。まぁ、さすがにそんなド派手な連中をメトロで見かけることはない。
「アミ」で長年デザインを手掛けてきたアーサー・ロバートによるウエストがデビュープレゼンテーションをした。ブランド名の由来になっているのは、デザイナーのルーツであるパリの南西地方、西を意味するウエストだ。ミリタリーセーターやスケーターTシャツにはこのエリアのフォークロアを思わせるラッフルが飾られる。モヘヤ混のセーターには地元の伝統的なフィッシャーマンのディテール。ジーンズやチノにはワークエプロンを一体化。サーフボードを包むメタリック素材を使ったポンチョやネオプレンのソックスを取り込んだようなシューズなどサーフィンの要素も見受けられた。ウェアラブルながらもディテールに面白さのある、注目したい新人だ。
(ライター・益井祐)
〈デジタル〉
タークはパリでのフィジカルショーを直前まで検討していたが、渡仏困難なため映像作家の児玉渚によるデジタルショーを配信した。タークと言えば、スタンダードアイテムを生地の変化で途中から違うアイテムへと変えていくテクニックだったが、今シーズン、目を引くのはシルエットの変化とグラフィックだ。パンツラインがフレアに流れる独特のシルエット。膝下から広がるタイプもあれば、ウエストあたりから大きく広がっていくものまである。
秋冬は自分の中の既成概念という濾過(ろか)装置のフィルターを壊し、改めて自らを探索したという森川拓野。そんな考えがフォルムの大胆な変化となったのかもしれない。同時に自身の内面をのぞき込み、自分自身の壁を超えたいと願うもやもやした感情を、グラフィックとして、プリントやジャカードにのせた。もちろん、アイテムが途中で変化して違うアイテムになるというシリーズも健在。今回はレザープリントの技術を生かして、ウールや綿、オーガンディをレザー化させた。それがトレンチコートが途中からライダーズジャケットに変化したりA2フライトジャケットが透明になったりといったデザインにつながった。
アクネ・ストゥディオズは、遊牧民のライフスタイルを背景にしたコレクション。使い古されたような工芸品やパッチワーク、アースカラーやアーティストのアトリエのような色彩が特徴となる。ハイウエストや細長いシルエットなどのプロポーションで遊び、拾い物が宝石のように扱われるなどハイ&ローが混在する。ギラギラのスパンコールシャツにはほつれた古着のような生地のベストを重ね、ベルベットのジャケットには布地をつぎ当てしたパンツを組み合わせる。ジョドパーズのようなデニムパンツには組みひものようなディテールが垂れ下がる。
「アイソレーションの中、私たちがいかに旅することに慣れているかに気付かされました。そのため、私が育ったスウェーデン北部のようなノマドのコミュニティーについて考えるようになりました。このコレクションは、コミュニティーの中で衣服という言語がどのように進化していくのか、ミックスとコントラストで構成されています」とクリエイティブディレクターのジョニー・ヨハンソン。
ファセッタズムは、光あふれる森の中にたたずむモデルたちの映像を配信した。秋冬もファセッタズムらしい、デコンストラクトなアイテムとボリューム感のコレクション。パッデッドパーツがレイヤードされたもこもこのボリュームのスタジアムジャンパーやMA-1、Gジャンは胸元から大きなリボンが揺れる。トレンチコートはウールのテーラードコートの襟だけが重ねられる。たくさんのチェック柄は重ねられプリーツとなって他のアイテムのレイヤーパーツとなっていく。グラフィカルな配色切り替えのトラックスーツに、人体の骨組みをプリントしたスウェットのセットアップもある。黒のトータルルックに白い鳥の羽根がアクセントとなった。
(小笠原拓郎)