22~23年秋冬パリ・メンズコレクションは、有力ブランドのフィジカルショーが相次いだ。ブランドのオリジンな物作りの強さを背景にした新作が広がった。一方、デジタル映像では服のリアリティーを補足するイメージの伝え方がカギとなる。
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〈フィジカル〉
ロエベのメンズウェアショー会場は一面が砂に覆われ、冬のビーチを思わせる。そこには視界を遮るほど長い無数のリボンがはためいていた。約4000本のリボンを使った87枚の旗が作り出す非現実的な世界。このカラフルなラビリンスはアーティスト、ジョー・マクシャとエドガー・モサによるもの。
「今日のリアルとは」と問いかけるジョナサン・アンダーソンは、季節感すら取り払った。パンツ一丁のモデルは、よく見ると若干縮小した裸がプリントされたトロンプルイユのボディーを着ている。コレクションの着地点として、スターティングポイントとしての体。最近デジタルで我々が目にする体はリアルとは限らないのだ。大きく膨れ上がった胸筋にも見えるハート型のパッドが入ったジャージーや、ボーンでアシンメトリーにフラフープのような円を描くTシャツとショーツのセットアップ、指が地表につくほど長く伸びた手袋など、そんなゆがんだ世界を表現しているのかもしれない。ベルトにメタルで大きくつづられた「ハロー」や「スマイル」の文字、こうなってくるとスクリーン越しに見る人の気軽なあいさつや笑顔まで疑わしくなってくる。
リアルか分からない世界にも美しさはある。スリーブレストップの表面やテーラードコートの縁、パンツのウエストでLEDライトが光を放つ。比翼仕立てのコートやバッグに輝くのは、巨大なメタルボタンかと思いきや、風呂や洗面台に見る排水口のふたのように見える。そんな中でロエベが持つレザー加工技術の高さを感じさせたのは、黄色や青のラバーにすら見えたシースルーコート。それが実はレザーなのだ。
非現実世界は、まさかのお笑い芸人グループ「ロバーツ」の秋山さんのお家芸にまで達した。裏に故梅宮辰夫氏の顔がプリントされたTシャツをかぶるあの服だ。「ダブレット」も似たようなアイテムを出していた。親日家と知られるジョナサン・アンダーソンがもしそんなコアなカルチャーをインスピレーションにしているのなら、彼の日本ラブは想像以上のものかもしれない。
ジル・サンダーと言えば、ミリタリーの印象があるのは自分だけだろうか。ミリタリーの要素をモダンテーラーリングに落とし込む。ルーシーとルーク・メイヤー、デザイナーカップルはそんなブランドのDNAを引き継いでいる。襟のないシンプルなロングジャケットやピークトラペルのオーバーサイズコート、その下には軍服のような合わせのテーラードがレイヤーリングされた。胸元で輝く円や四角形のジェエリー、恐竜のチャームですらネームプレートや胸章に見える。オプティカルなセーターやベスト、温かみのあるクロシェも印象的だった。ふちのない帽子とのスタイリングは東欧の民族衣装やかつての軍人の姿のようでもあったが、モダンヒッピーと言ったところだろうか。
ストロボの中に見え隠れするモデルたち、その頭にはトーチが輝いていた。古代エジプトの壁画に見る、神聖な装束のようなヘッドギアが放つ光――リック・オウエンスはコロナ禍の闇の中で迷う我々に道を示そうとしているかのようだった。
光が作り出す影のようにスカートがフロアにまで伸びる。ロングヘアのパネルを背負ったリフレクターブルゾンが、ストロボを反射する。ボタン開閉でポンチョやケープとしても使えるコート、胸にサテンのパネルを配したオーバーサイズのテーラードジャケット、アウターにはボリューム感を持たせた。昨シーズンに続きパワーショルダーも健在だ。首元を守るかのようにチューブが包むパフベスト、ジッパーを全て閉めることで顔全体を覆うマスクになるジレ、プロテクションも万全。大きなメタルチェーンのベストはこれから戦いにでも挑むようだ。チェーンはプリントにも落とし込まれた。
コットンジャージーは全て、コットン織物も90%がオーガニック。声高らかに言うわけではないが、口に出すことでファッションを変えられるのではないかとリック・オウエンスは考えているようだ。
(ライター・益井祐)
〈デジタル〉
ドリス・ヴァン・ノッテンは、男性が抱き合い、キスをする幻想的な映像で新作を披露した。その映像から、あいまいなジェンダーに対する意識とデカダンなムードが漂う。花柄のスカジャンに箔(はく)のブルゾン、カーリーヘアのふわふわとした風合いとスパンコールの光沢。様々な光のきらめきと、様々な触感の素材を組み合わせて、あいまいな中に漂う美しさを描く。ミリタリージャケットにスパンコールのパンツやストールを合わせてレトロなムードを強調する。白いスーツはたっぷりのボリュームを持たせたパンツのシルエット。ドリス・ヴァン・ノッテンらしいきれいな発色のアイテムも充実する。ぼやけた花柄やマーブルのように見えるタイダイ柄が幻想的な美しさを完成させる。70年代のグラムロックのアーティストたちを思い出させる、儚(はかな)げな耽美(たんび)主義を感じるコレクション。
NIGOによるケンゾーの新作コレクションはかつてケンゾーのショップ「ジャングルジャップ」があったギャラリーヴィヴィエンヌで開かれた。メゾンの持つヘリテージとNIGO自身の現代的なコードとの出合いが、新たなビジョンという。チェックのケープに花柄のセットアップ、レタード刺繍のスタジャンやフェアアイルのセーター。スタンダードでトラディショナルなアイテムにケンゾーらしい華やかな色柄がのせられる。ハイビスカスやポピーが様々なアイテムを彩る。ジャパニーズデニムのカバーオールやコンビネゾンなど、日本人である2人のルーツを感じさせるアイテムも揃う。スタンダードアイテムをベースにしているのには、ランウェーが実生活に結びついているべきという2人の信念があるから。新たなワードローブは、毎月限定版のドロップとして徐々に明らかになっていくという。
(小笠原拓郎)