22~23年秋冬パリ・メンズコレクションは、ピンクやグリーンの鮮やかな色使いや、シアリングやメルトンの暖かなアウターが目立つ。アイテムの解体再構築といったデザインも広がった。
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ダブレットは、栃木県足利市にある渋谷スクランブル交差点を模した空間でショーをした。JR渋谷駅の改札口からピンクのおかっぱ頭のモデルが次々と現れる。スクランブル交差点を行き交うダブレットを着たエキストラを縫うように交差点を歩いてくる。無表情の顔とピンクヘアはバーチャルモデルのimma。女子高生のような若さあふれるモデルからふくよかなモデル、義足のモデル、車椅子のモデル。全てのモデルがマスクでimmaになって登場する。
多様なモデルが着るダブレットの新作は、若々しく自由なエネルギーにあふれている。ショート丈のジャケットのパンツスーツにファーのリサイクルジャケット、レパードとゼブラのニットを重ねたトップ。鮮やかな配色とサイズバランスで、モデルたちに躍動感を与えている。今回、井野将之が考えたのは多様性であろう。体形も性別も様々で、ハンディキャップのあるモデルも含めて、フィナーレにマスクを外して素顔を見せた全てのモデルが生き生きと輝いて見えた。アレキサンダー・マックイーンをはじめ、これまでもハンディキャップを持ったモデルを登場させたデザイナーはいる。それはハンディキャップもまた一つの個性として、その美しさを描くものだった。それと比べると、ダブレットのコレクションはもっと自然体に見える。
ハンディキャップを個性としてことさら強調するわけではなく、当たり前の存在としてキャスティングしてナチュラルにそれぞれの魅力を押し出したように感じられた。そんな井野の〝等身大〟の多様性の背景には「もったいない」から始まった自分なりのサステイナブル(持続可能な)がある。ファーのリサイクルジャケットはファー工場に眠っていたファーの襟をつないだものだし、デニムのトゲトゲジャケットは有松絞りを応用して伸縮性を高めて様々なサイズの人が着られるようにしたものだ。
ファーフリーや生分解性素材なども取り入れながらもコレクションとしては、決して押しつけがましくない。多様性もサステイナブルも等身大で手掛けるダブレットのショーは、渋谷を闊歩(かっぽ)する人たちの若々しいエネルギーに包まれた。
オーラリーは、上質な素材で見せる静かなラインを揃えた。エクリュや黒、コバルトブルー、グリーン、柔らかなニュアンスカラーときれいな発色のアイテムをトーン・オン・トーンで色を微妙にずらしながら重ねていく。メルトンのコートやダブルフェイスのコートはふわっとした暖かみのある素材感。マイクロチェックのコンビネゾンとジャケットのコーディネートはかっちりとしながら、リラックスした雰囲気も併せ持つ。ダウンベストやアノラック、キルティングのセットアップなどカジュアルなアイテムも、きれいな発色のせいか上品に見える。レディスでは黒のレザードレスとコートの合わせやニットのタンクドレスが目を引いた。コレクションの背景にあるのは「暖かさ、安らぎ、軽さ、輝き」。柔らかな色と上質な素材を生かして、カジュアルとエレガンスの程よいバランスを見せた。
(小笠原拓郎)
舞台演出家フィリップ・ケーヌが描いた30メートルはあろう巨大なキャンバスが開くと、そこに広がったのは美しい太陽に照らされた架空の大地だった。ルメールは、エティエンヌ=ジュール・マレーのクロノフォトグラフに見る動きが作り出すシルエットが着想源だ。シャツにエプロンスカート、コート、さらには大きなバッグと幾重にもなったアイテムは連続写真で重なった被写体のよう。ローウエストで巻かれたキルティングスカートやギャザーが作り出すバルーンシルエットは、腰の低い位置に重点が置かれた。メンズでも低めにベルトを巻いていたが、装いはシンプルなものだった。ルーズなスタンドカラーのスーツ、全体的にゆったりとしたシルエット。オーバーサイズのパーカ、ミリタリーグリーンのシャツジャケット、腰や足首をベルトで絞ったチノパン、首下から水筒、その姿は探検家のようでもあった。ポストコロナという新天地を探し求めてモデルたちは歩き続ける。
ルイ・ガブリエル・ヌイッチは、シャルル・ボードレールの「人造天堂」がテーマ。その現代における反映として、パンデミック(世界的大流行)以来禁断の場所になってしまったナイトクラブに目を向けた。中わた入りのガウンに、ソフトテーラーリング、ハイレグのボディースーツにはラウンジパンツを合わせる。リラックスな印象だ。サイドにスリットが入ったブリーフなど下着を推している。
アルトゥーロ・オベゲロのショーは、ミニオーケストラの演奏とともにドラマチックな香水のCM風映像で始まった。シグネチャーと言える細身のハイウエストパンツ、注目の若手はフラメンコの経験を持つ。ボディースーツから一見ドレスのようなトレーンを引くサロペット、さらにはタトゥーのようにモデルのボディーに直接、フレンチレースが多用された。
メンズ、レディスともにパリ・コレクションの公式会場になっているパレ・ド・トウキョー。若手を紹介する展示会「スフィア」横のスペースでは、展示会に選ばれたデザイナーを中心に注目株のプレゼンテーションが行われた。「アーネスト・W・ベーカー」は持ち味のレトロ調テーラーリングを継続した。スーツは大きめショルダーのダブルブレスト、パンツはソフトなブーツカット。キルティングのセットアップやループニットのアイテムがビンテージ感をプラス。Kポップアイドルなどセレブが着用したことで、韓国でのビジネスが急成長という。
トレンドに左右されない上質ウェアを提案しているのがデザイナーデュオ「ユニフォーム」だ。インスピレーションとなったのは火山。そのリサーチとして集めたのは火山を収めたビンテージのスライドだった。そんな荒々しい情景は落ち着きのあるコレクションにグラフィックとして落とし込まれた。
机に置かれた1台のラップトップ、そこからチャットできるのはスマートフォンを持った初々しいモデルちゃん。出会い系のようでちょっとやばめ、「ラソシュミドル」のプレゼンテーションは90年代の日本を思い起こさせたが、まんざら間違ってもいないようだった。フーディーやスパッツにつづられたのはカタカナのブランド名。ラメの上下やベルベットのジョガーにはチョウの姿が。かつての原宿ファッションに、得意の水着やシングレット、チャップスなどお色気アイテムを合わせた。
(ライター・益井祐)