22~23年秋冬ミラノ・コレクション 依然として強いジェンダーフリー

2022/03/03 06:27 更新


 22~23年秋冬ミラノ・コレクションは、テーラードスタイルにスポーツやビンテージの要素を取り入れたスタイルやアップサイクルのデザインが広がった。男性らしさと女性らしさの間にあるジェンダーフリーの見せ方は今シーズンも依然として強い。

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 ボッテガ・ヴェネタは、久々にミラノ・コレクションでショーを行った。今回は、新クリエイティブディレクターのマチュー・ブレイジーによるデビューコレクションでもある。注目が高まるなか、ファーストルックに登場したのは、白いタンクトップとストレートジーンズの飾り気のないスタイル。洗いざらしの髪をかき上げただけのヘルシーな女性が醸し出す、素の美しさとはどんなものかを追求したい。そんなメッセージが感じられる。といっても、そのジーンズはしなやかなヌバックに写実的にデニムをプリントしたもの。DNAにあるエレガンスを感じさせる。

ボッテガ・ヴェネタ

 続くルックも至ってシンプル。その中にどことなくセンシュアルな要素を取り入れることにこだわった。深Vネックのスリップドレスやドレス替わりのメンズシャツにはイントレチャートのサイハイブーツ、ノースリーブのコンビネゾンは肩でフェザーのようなディテールが揺れる。肩のストラップだけ丸く厚みを持たせたドレスや、背中が緩やかな曲線を描くピーコートなど、部分的な丸みがモダンなイメージを凝縮する。ミドルゲージのセーターとたっぷりと広がるAラインスカートのルックのように、ラグジュアリーでありながら、日常や実用性を重視したスタイルをシンプルに描き出した。バッグも新鮮だ。たくさん登場したのは、取り付けられた1本のストラップを肩にひっかけて持つバッグ。細かい手仕事のラグジュアリーなバッグを、あえてラフに持つ。レザーのピローバッグはわしづかみする感じもスタイルにフィットする。

ボッテガ・ヴェネタ
ボッテガ・ヴェネタ

(青木規子)

 ドルチェ&ガッバーナは、デザイナーの故郷シチリアと当地のアイコニックな色のブラックを、メタバースというサイバー世界で再解釈した。まるでゲームから飛び出してきたかのようにニューヒロインたちを登場させた。キーワードは「メタバース」「彫刻的、ジオメトリックなシェイプ」「80年代の美学」「ゲーム、バーチャル世界のヒロイン」。ランウェーの背景には、未来都市の風景。小さな女性のアバターたちが街を歩き、空を飛ぶ。

 「シチリアの黒」のクラシカルなコートやジャケットは、肩を強調。80年代のパワーショルダーより更に広いが、肩からなだらかなカーブの独特な形。ウエストを絞った身頃と対照を成し、彫刻的なシェイプを描く。従来のシチリアの官能的な女性とは一線を画し、個性が際立つ。フェイクファーのコートは極端なボリューム。ダウンのケープは、頭から膝までが一体化しすっぽりと包むロケット型。袖山が上に向かって膨らんだパフスリーブのミニドレスは、つやつやと光るエナメル。ゲームの世界から飛び出してきたようなバーチャル世界のヒロインたちが、アクティブにランウェーを闊歩(かっぽ)する。「セクシー」は同ブランドにとって欠かせない要素だが、人に見せるセクシーではなく、「それぞれの個性やスタイルがまずありき」という、自分のためのセクシーだ。ここまでやるかというほど極端なフォルム、光り輝く素材、演出。「元気にポジティブに」というイケイケなムードが、ランウェーを飛び出して、バーチャル世界に次元を超えて広がっていくようだ。

ドルチェ&ガッバーナ

 マルニは、郊外の倉庫跡で全員が立ち見のショー。場内は植物が茂った森の小道を模した暗闇で、立ち位置の指示もない観客たちはどこに陣取ったら良いのかも分からずうろうろとして、混沌(こんとん)としたムードだ。そこに現れたのはモデルと、それを後ろからトーチライトで照らす、ぼろぼろなニットの目出し帽をかぶった人の二人組。二人組は森の中をさまようようにジグザグに進んでいく。ほつれた部分をかがったようなステッチ入りのニットやシャツ、かけはぎにパッチワークしてアップサイクルしたデニム、破れたドレスをデフォルメしたトップなど、修繕やアップサイクルされたアイテムがキーとなるコレクション。

マルニ

 ショー直前にクリエイティブディレクターのフランチェスコ・リッソから観客一人ひとりに向けてメールが届いた。「親愛なる友へ。未来はやって来て、我々を置き去りにしていった。しかし暗闇の中でも、一緒にいることで以前よりも気分が軽くなる。ここからどこに行こうか」。続いてメッセージでは、所有しているもの、受け継いだもの、思い出を引き出すものの修理や世話の大切さと魅力を訴えている。「修繕や暗闇の中を共に歩むことを通じて、共に今という時を修繕し、未来を創っていこう」と結ばれていた。

 ショー会場から外に出ると、まばゆい陽光のもとにモデルたちの供宴が繰り広げられ、ワインやお菓子を手に長いテーブルの上で踊っている。これは修繕された未来なのか。それにしては、あまりにも退廃的に感じられた。

 トッズは、ブランドが提唱し続けてきた「イタリアン・ライフスタイル」をさらに現代的にアップデートした。クリエイティブディレクターのヴァルター・キアッポーニは、アクティブでボーイッシュ、かつフェミニンな女性像を見せた。

 トレンチコート、ハンティングジャケット、ボンバージャケットなど、マスキュリンなユニフォームやスポーツウェアは、メインアイテムの一つ。トレンチは、襟は手編みのニット、袖はムートンのような見かけに加工したウールと異素材を組み合わせてボリューム感にこだわった。そのシルエットは、都会的なイメージとカントリー調が交錯する。ボンバージャケットの肩には、アイコンの「ゴンミーノ」が肩章のようにあしらわれている。

 仕立てには、もちろん今シーズンのトレンド、テーラーリングが根底に流れ、いつもよりマスキュリンなムードが高まった。ビッグなボックスシルエットの黒いコート、それに合わせた同色のスーツのパンツは超スリムで裾ファスナーを開けることで、抜け感が出る。かっちりと仕立てられたロングケープとバミューダパンツは、クリスタルビーズで幾何学的な刺繍を全面に散りばめて、辛口なフェミニニティーを加える。

トッズ

 ステレオタイプな女性ではなく、魂が磨かれた自分らしい女性、多様な女性に向けてコレクションを作るというキアッポーニにとって、このマスキュリンとフェミニンの配合や新たなスポーツウェアとユニフォームの提案はまさに彼の十八番といえる。

 エンポリオ・アルマーニは、レディスとメンズの合同ショーを見せた。テーマは「色彩のリズム」。誘惑、魅惑を示す「グラマー」という言葉の真の意味を再考し、「グラマーは人それぞれが持つ魅力〝個性〟から発する」との結論に至った。その個性を色使いで強調した。

 レディスは、ピンク、グリーン、コーラルなど鮮やかな色調。それを時に黒と合わせて際立たせながらも引き締める。曲線を描き、女性のボディーのしなやかさを強調するパンツは、胸元にボタンが並ぶ制服のようなクロップトジャケットや、スパンコールがきらめくトップとコーディネートされる。ジャケットのとがったショルダーは薄く、かえって華奢(きゃしゃ)な肩を際立たせる。グラフィティーのような抽象柄のミニドレスには、グラディエーターを上品にアレンジしたブーツや太ももまであるぴったりとしたレザーブーツで、アグレッシブなムードを加えた。

エンポリオ・アルマーニ

 一方、メンズはグレーの濃淡がメインカラー。エンボス加工地のコートは極端なオーバーサイズでワイドラペル。バミューダパンツの足元は、同系色のニーハイブーツでアバンギャルドながらもすっきりと上品だ。大小の幾何学模様が、シープスキンのコートやパファージャケット、フーディー、ニット、シャツに繰り返し登場し、都会的なストリートウェアを演出した。

 ディースクエアードが物語る女性は、何年も家にとどまった後、未知の場所を放浪し探検するスピリチュアルな旅路を歩むボヘミアントラベラー。愛と平和を願いながら、皆同じ思いを寄せて服を着る。素朴なタスカニーレースのオーバースカートやアフリカンモチーフのカラフルなニットなど、旅先での愛しい思い出を象徴するようなアイテムが重ね着される。スウェット地のパンツにミニスカートとキルトを重ね、体をすっぽりと包み込むオーバーサイズの光沢あるパッデッドパーカにフラノ地のベストを羽織る。登山ザックを背負った山ガールは、引きずるほどルーズなコーデュロイパンツに、ペーズリーのオーバードレス、ミニクロップト丈の鮮やかなオレンジ色のパーカ。

 自由で澄み切った精神を反映したカラーパレットは、錆(さ)び色、琥珀(こはく)、フォレストグリーン、カーマインレッド、バークブラウンなどナチュラルなアースカラーだ。

ディースクエアード

(高橋恵通信員)

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