22年春夏パリ・メンズコレクション 若手中心にフィジカルショー 環境配慮や多様性を意識

2021/07/02 06:28 更新


 22年春夏パリ・メンズコレクションでは、若手を中心にフィジカルなショーやプレゼンテーションで見せるブランドがあった。環境に配慮した物作りや多様性を感じさせるコレクションが目立った。

(ライター・益井祐)

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〈フィジカル〉

 パリ・メンズ3日目にフィジカルショーを敢行したのは中国ブランドの「ジョーワン」だ。パレ・ド・トウキョウのコートヤードにある池に鏡張りのランウェーを特設し、その財力をうかがわせた。それもそのはずスーツを得意とする大手アパレルだとか。オフスケジュールながらもなぜパリでと言うと、公式日程上で次にショーを行う予定の「ルイ・ガブリエル・ノウチ」がクリエィティブディレクターを務めているからだ。招待状をよく見ると彼のショーも同じ場所だということに気付く。

 先陣を切ったジョーワンは、海のシルクロードに注目、中国とヨーロッパの交易をひも解いた。中でも目を引いたのはシャツやショーツ、アクセサリーと多用されたトワルドジュイ柄。目を凝らすとそれは中国の昔ながらの帆船や、ベニスの様子、パリの新旧凱旋門と名所旧跡だった。

ジョーワン

 常に本を着想源にしているというルイ・ガブリエル・ノウチ自身のコレクションは、ベトナムを舞台にしたアジア人とフランス人のロマンスがベースになっている。環境に配慮した服作りをしており、コットンを避けレーヨンやリネンを使用、コーヒーによる染色も施した。マーブル柄は重要でプリントでシンプルなシャツやショーツ、また熱を加え温度差で素材に艶感を持たせる加工を使っている。ニットにも絵柄を浮き上がらせた。軽やかなガウンやトランクスが伸びたようなパンツのように、終始ポストコロナを感じさせるリラックスした雰囲気。下着も推しているようだった。

ルイ・ガブリエル・ノウチ

 フィジカルのオフスケジュールでショーをしたのはニース・ナイアー。会場にはおしゃれキッズだけでなく、「ロシャス」のクリエイティブディレクターに就任したシャルル・ド・ヴィルモランやヴィクトール・ヴァイサントの姿があった。ショーのセットはさらに驚きもの。モデルがパステルカラーの女性器風のアートワークから登場、人類みんな同じところから出てくるというメッセージがあったのだろう。このショーには男性モデルがいなかったとするのが正しいのだろうか。PVC(ポリ塩化ビニル)のフェティッシュドレスで始まり、総フリルのパンティー、レインボーカラーのニットワンピース、途中にフライトジャケットなどのウェアラブルなアイテムを経由して、精子を称えたのであろうフィナーレドレスへと続いた。その全てが女性や女装した男性、そしてトランスモデルによって表現された。プライドウィークエンドを迎えようとしていたパリの気分なのかもしれない。

ニース・ナイアー

 パリ・コレクション公式の若手ショールーム「スフィア」にはプレゼンテーション用のスペースが設けられている。デジタルショーとともにフィジカルのプレゼンでコレクションを見せたのはユニフォームだ。「今の子供は夢なんか持っちゃいけない」とフランスのある大臣がいったセリフに衝撃を受けたと言う。幼少期を振り返り、映像にも登場する飛行機に思いをのせた。ブルゾンの背中にはかつての戦闘機のマーキングのような二重丸がシルクスクリーンで描かれ、オーバーサイズの抽象的なプリントもよく見ると飛行機のよう。チャンキーなカーディガンの編み目はオリジナルで翼をイメージ。ニットの半袖トップの襟元はタイヤ痕をイメージしたものだ。さらにはつなぎやパラシュートを付けるように背中がばっくりと開いたベストなど、フライトのエトセトラが並んだ。

ユニフォーム

 ブランド設立とともに新型コロナを迎えたエゴンラボは、4シーズン目のニューフェイスだ。フリーダムやリバティーをうたった22年春夏では、かつてパンデミックのあった中世に注目し、ディテールやプリントとしてコレクションに落とし込んだ。天使の並ぶジャカード織のトレンチコート、フェニックスのプリントが鎮座するキルティングジャケット、ドラゴンがショーツを取り囲み、プロテクションを意味する紋章がパターンとして繰り返し使われた。プリント物が目を引いたが実はテーラーリングも充実、ブランドのシグネチャーとして推している。

エゴンラボ

 アルトゥーロ・オベゲロは、フランスとの国境に近いスペインの小さな街の出身。フラメンコをはじめ子供の頃から踊りをたしなんできたという。そのスピリットはフラメンコダンサーに見るような、細身のシルエットやハイウエストのパンツにうかがえる。ダンスの経験から動きを重視して、ほとんどのガーメントにストレッチ性のある素材を取り入れて着心地も考慮している。ロックダウン中の前シーズンのコンセプチュアルなコレクションに比べると、ウェアラブルで彼なりにポストコロナの服のあり方を考えたようだ。

アルトゥーロ・オベゲロ

 レトロ感のあるニットスーツをハリー・スタイルズが愛用したことで脚光を浴びたアレド・マルティネス。デザイナーは自身の髪型も変え気分転換、ブランドの方向性もシフトした。これまでのソフトテーラーリングが一転、ストリートどころか布の量が少ないことに。それもそのはず着想源は70年代のゲイシーン。艶感のあるマイクロスポーツショーツにジョグストラップのウエストバンドをリブに使ったブルゾン、Tシャツにはエイズで亡くなった人物の名と享年が、あたかも背番号のように記された。当時のスケーターファッションも重要で、クロップト丈のパーカやバギージーンズに反映された。

アレド・マルティネス

〈デジタル〉

 気になったのはボラミー・ヴィギエだ。ここ数シーズンはロールプレイングゲーム風のように、完成度の高いうえ面白味のある映像で発表し注目を集めた。しかし今回は走っているモデルの後ろのバックグラウンドだけが変わるシンプルなものだった。もっと服に集中させたかったと語る一方で、これまでの中でも一番テーマ性のないコレクションだとも付け加えた。テーラードジャケットに、チュニックシャツ、中華柄ジャカードのユーティリティーショーツ。その中で多く使われていたのがネクタイだ。ロックダウンで会社に行かなくなり廃れてしまったビンテージのタイを大量に買い取り、トップのパネルやチョーカー、さらにはカラフルなウィッグと合わせた謎のアクセサリーとして新たな命を与えた。プロダクトに特別な意味を持たせるためにシーズンタグを制作、今季は好きなキノコ2種、そしてアップサイクルのラインには「1/1」のタグが付けられている。

ボラミー・ヴィギエ


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