23年春夏パリ・メンズコレクション 服のエネルギー伝えるフィジカルショー

2022/06/27 06:29 更新


 23年春夏パリ・メンズコレクションは、ビッグブランド、実力派のショーが続いた。規模の大小にかかわらず、フィジカルで見せる服のエネルギーが伝わってくる。ショー会場には、再会を祝うあいさつや新たな日常への気持ちを共有する姿が広がっている。

(小笠原拓郎)

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 久しぶりのフィジカルショーとなったドリス・ヴァン・ノッテンが会場に選んだのは、立体駐車場の屋上。開放的なルーフトップを舞台にして、テーラーリングにモトクロス、カウボーイといったスタイルのミックスを見せた。エレガントなシルクタッチのシャツとタイに、ニットチューブを腹巻きのように巻きつける。テーラーリングに挟み込まれたニットチューブがシルエットに変化をつける。かつてのショーでも見覚えのあるネイティブアメリカンの羽根のモチーフがスーツを彩る。バイカーパンツにクラシックなコート、パジャマパンツにはブルゾン、異なるシチュエーションのアイテムをミックスして躍動感を作る。

 ショーの後半は色柄のミックス。グラデーションやテープ状の柄の切り替え、タイポグラフィー、スパンコール刺繍、様々な要素をミックスしたアイテムが楽しさを誘う。「2年半ぶりに行うメンズのフィジカルショーで、人生を肯定する瞬間を祝うことに心地よさを感じて」とドリス・ヴァン・ノッテン。長らくドリスのコレクションを見続けていると、その切れ味、デザインの引き出しの多さに驚かされる。この春夏はそれほど驚きはなかったのだが、改めてドリスのミックスセンスのデザインをリアルに見られたことに喜びを禁じ得ない。コロナ禍で、アントワープの街並みを背景にした映像を見せていた時と比べると、またファッションで感動を分かち合いたいという気持ちがわいてくる。

ドリス・ヴァン・ノッテン
ドリス・ヴァン・ノッテン
ドリス・ヴァン・ノッテン

 ルイ・ヴィトンのショー会場となったルーブル美術館の門をくぐると、巨大なボールゲームの施設が作られている。赤い大きなボールとそれを転がすイエローのゲームの中に観客たちの座るスペースが作られる。ショーの冒頭に登場するのはマーチングバンド。激しく踊り演奏しながら幕開けを飾る。アメリカンカルチャーを感じさせる演出とともに登場する新作は、故ヴァージル・アブローのデザインの流れを受け継ぐもの。フラワーモチーフのボタンを付けたスーツやブロック柄にロゴをはめ込んだプリントのスーツ、白いコートには大きな花柄を刺繍する。紙飛行機が刺繍されたスーツ、クロシェニットのモノグラム柄の刺繍のジャケット、ビジュー刺繍で花畑を描いた総刺繍のスーツ。ハンドテクニックをふんだんに入れたアイテムが揃う。よく言えばキャッチー、厳しい目で見れば分かりやすくてこれ見よがしなデザイン。デザインチームにクリエイションが引き継がれてもその線は変わっていない。だが、そのキャッチーなわかりやすさで、米国をはじめとする新しい世代の人気を確かにしたのも事実。

 LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループは90年代後半から様々なデザイナーを起用してきた。マーク・ジェイコブスのルイ・ヴィトン、マイケル・コースのセリーヌ、90年代は「ニューヨークでデザインし、パリで見せ、世界に売る」などと言われたものだ。そして、アメリカのデザイナーを起用して世界に売るという戦略で最も成功したのがヴァージル・アブローであろう。新しい市場を開拓できたからこそ、アブローが亡くなった後も、簡単に後任を立てようとしない。デザインチームでデザインの流れを継承しながら、ブランドの知名度を生かしてビジネスをしたたかに進めていく。そんな思惑を感じさせる。

ルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトン

 ジバンシィは水を張った白いステージを舞台にした。ぴしゃぴしゃと水を跳ね上げながらモデルたちが登場する。そんなシチュエーションに最適な靴としてボリューム感のあるレインブーツやスニーカーを揃えた。服はジバンシィらしい上質な風合いとストリートのハードなイメージが混在したもの。ステッチや刺繍で立体的なロゴを浮き彫りにしたブルゾン、スエードタッチのブルゾンといったアイテムの一方で、バラクラバのようなアイテムやTシャツからつながった目出し帽のようなものもある。たくさんのポケットを付けたストレートパンツなどユーティリティーを感じさせるアイテムも充実する。ネオンカラーのグリーンやオレンジをヒップハングパンツとアンダーウェアに取り入れて、エキセントリックに仕上げたスタイルも多い。

 マシュー・M・ウィリアムズになってからのジバンシィは、ストリートを背景にしたユーティリティースタイルがメイン。より若い層に対して魅力をアピールしていくブランディングなのであろう。いつまでも大人のためのエレガンスを志向しているだけでは市場も硬直化する。方向転換していく狙いはわかる。ウィリアムズの起用で、アクセサリーに関してはそれも成功しているのかもしれない。しかし、服の質感と対象となる顧客および価格のバランスは合っているのだろうか。そのあたりが気にかかる。

ジバンシィ

 Yプロジェクトは砂利を敷き詰めたランウェー。たくさんのデニムとトロンプルイユを軸にしたコレクションを見せた。ハンカチーフヘムで布の動きを強調したデニムスカートやブリーチデニムのパンツ、ブリーチや刺繍をしたデニムのアイテムに、トロンプルイユでデニムをプリントしたアイテムが差し込まれていく。リアルデニムとトロンプルイユのレイヤードを楽しめる。布をたるませたデニムのサイハイブーツがアクセントとなる。

 布地が途中で消えてなくなるディテールもある。タンクトップはショルダーの布が途中で透明のテープとなって消える。アメリカンスリーブのドレスも同様に布が消えてなくなる。フロント合わせがねじれて固まって造形的なフォルムを作るシャツに、このブランドらしさが込められている。この間、様々なブランドでのデザインを任されてきた背景が、クリエイションに生かされている。

Yプロジェクト

 長らく建設中だったパリの中央郵便局の新たな空間で、オムプリッセ・イッセイミヤケはショーをした。このブランドらしく、人の体とともに躍動する服の在り方を強調する見せ方。モデルとともにダンサーが新作をまとい、会場を動き回る。壁から降りてきたダンサーたちは組体操のような動きをしながら、しなやかにプリーツの伸縮性ときれいな発色を強調する。プリーツは縦やバイアスなどさまざまな方向に作られ、ドットボタンのパーツを外してフォルムに変化をつける。プリーツのアイテムを補足するのは軽やかな風合いのアウター。プリーツにドットのような模様をのせた柄も気になった。

オムプリッセ・イッセイミヤケ

 ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクは劇場を舞台にした。幕が上がるといくつもの黒い三角布が置かれている。次々とその三角布がはぎ取られると、モデルが現れ歩き回る。ジャケットはショルダーラインから袖のアウトシームにかけてのりしろのような布の装飾を飾る。袖のシームを割ってそこから羽根飾りのようなフリルをのぞかせるジャケットやコートも目立つ。ジャケットのフロントにボーン(骨)をかたどったカットアウト、背中にはスカルモチーフのカットアウトを施す。カットアウトやシームの布使いは、どこかコムデギャルソンのデザインを思い出させる。ショーの後半は、箔(はく)やラメをコートやジャケットにのせたもの。フィナーレにはウォルターが「ピース、ノーウォー」のメッセージTシャツを着て登場した。

ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク

(写真=ルイ・ヴィトンの横写真とオムプリッセ・イッセイミヤケは大原広和、他はブランド提供)



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