【トップインタビュー】ユナイテッドアローズ  竹田 光広代表取締役 社長執行役員

2018/10/04 06:00 更新




 ユナイテッドアローズは、ESG(環境・社会・企業統治)活動に精力的に取り組んでいる。国内最大手のセレクトショップとして、商品の安全性確保や品質を維持する努力はもちろんのこと、環境への配慮や消費者への啓発活動、従業員が働きやすい職場作りなどについても様々な施策を具体化してきた。同社は、一連の取り組みを、ファッション小売りとして今後も成長を続けるために避けては通れない経営課題と考えている。


◆原点は5つの価値創造

「お客様、従業員、取引先様、社会、株主様すべてに貢献する」

 企業運営をESGの観点で捉え、実践する動きはファッション産業にも広がりつつある。投資対象として企業を評価する指標として広がった考え方ではあるが、E=環境、S=社会、G=企業統治、三つの観点から見て優れていることは、企業が消費者から支持を得るうえで重要な指標ともなる。

 ユナイテッドアローズの場合、ESGの観点に沿った各種の取り組みを早いものでは10年近く前から具体化しており、その多くを現在も継続して行っている。これらの取り組みは全て、同社が経営理念に掲げる行動指針の中にある「5つの価値創造」と根底でつながっている。

 5つの価値とは「お客様」「従業員」「取引先様」「社会」「株主様」という自社のステークホルダーに提供する価値のことを指す。「お客様に良い商品とサービスを提供して喜んでいただき、それを販売する従業員が働きやすい環境を整える」。さらに「販売する商品の品質と安全性が両立できるよう取引先様との関係を大切にする」。

 ここまでは企業が収益を上げるための大前提だが、同社はこれらに加えて、買い物袋の使用削減やリサイクル活動、乳がんの早期発見の啓発活動のほか、社会問題の解決につながる商品の企画、販売などにも取り組んでおり、ファッション企業として「社会」に貢献できる活動も重視している。

 良い商品を作り、販売することで収益を上げつつ、社会貢献も果たし、「最終的に利益を株主様に還元することで5つの価値創造は循環する」。

 竹田光広社長は「商売だけでなく、社会や環境に対しても正しいことをして、その上でお客様に満足して頂き、成長する。それが出来ない企業はこれから生き残れない」と話す。

◆信頼できる商品を届けるために

工場との情報共有で品質を高める

 「5つの価値創造」に向けた活動のひとつが販売する商品の安全性や信頼性を高める取り組みだ。自社で企画、生産し、販売する商品には全社共通の品質基準を設け、素材や表示タグまで全ストアブランドのデータを一元管理し、生産を担う工場や素材調達などもの作りの背景も自社で把握している。

 不良品を極限まで減らし、信頼できる商品を店頭で販売員が自信を持って販売できるよう、同社はサプライチェーン全体にも目を光らせる。誤表記や危険物混入の撲滅に向けた取り組みとしてオリジナル商品の生産で取引する縫製工場との「QC(クオリティー・コントロール)ミーティング」を05年に始めた。

 オリジナル商品の生産の大半を占める中国、日本、ベトナムの工場と定期的に開く会合は、「取引先様とのコミュニケーションを通して商品の品質向上を図る」のが狙いだ。不良品の発生防止に向けた注意喚起を促すだけでなく、商品のグレードアップにつながる事例や情報も各社と共有する。

商品のレベルを高めるため、主力工場と直接対話で情報を共有するQCミーティングを定期的に開いている

 さらに主力工場へは技術担当が年2回足を運び、視察も行う。ファッション小売りとしては異例の徹底ぶりと言える。

 だが、一連の活動を管轄する谷川直樹執行役員は「仮に不良品が1万枚に1つでも、その1枚を手に取ったお客様には100%の確率。ただ販売するだけで我々の仕事は終わりではない」と言い切る。

 過去に商品の原産国や素材組成の誤表記による問題が起こったことがある。クレームが相次ぎ、「お客様がユナイテッドアローズという会社を信用して商品を買ってくださっていることを痛感した」。この時以来、同社は生産の現場から店頭と、販売のプロセスの全てで商品管理をあらためて徹底するようになった。

 市場で信頼される商品を作るために始めたQCミーティングだが、品質とともにもの作りの精度を上げる努力を重ねたことはユナイテッドアローズの業績改善にもつながっている。「ただ売れたらいい、では足りない。ここまでやるから買っていただけた、そう言える努力をもの作りの面でこれからも続けていく」考えだ。

◆環境や社会問題に向き合うために

現場の声生かし、ファッションを通じて考えるきっかけを作る

 ユナイテッドアローズは、環境や社会問題の解決に向けた活動の多くを店頭起点で行う。買い物時にショッピングバッグの使用を辞退すると1回につき10円を森林保全団体に寄付するプロジェクトや、照明による電力使用の削減を目的として、約96%の店舗でLED照明を採用していることがそれに当たる。

 このほか、羽毛製品の回収リサイクル=グリーンダウンプロジェクトや品質基準を満たさない商品や使用しなくなった店舗什器をリペアし、販売するアップサイクル=Re:プロジェクトの取り組みもある。これらの取り組みは全て現場で働く社員の声を汲み上げ、具体化したものだ。08年から継続している「ピンクリボンキャンペーン」もそのひとつだ。

 毎年10月の乳がん月間に合わせて、乳がんの早期発見・診断・治療の大切さを呼びかけるために実施し、期間中の対象商品の買い上げ金額の何%かを支援団体に寄付している。あるストアブランドの商品開発担当者が起案し、始めたものだが、回を重ねるごとに参加するストアブランドは増えている。

 「こういった活動を業績を評価する指標として見ることは難しい面もある。けれども、女性のお客様が多い当社にとって、商品をお買い上げ頂くという行為が、寄付だけでなく、お客様が検診を受けるきっかけにもなるキャンペーンの意義は大きい」。CSRチームの玉井菜緒さんはこう話す。

08年から始めたピンクリボンキャンペーン。回を重ねるごとに参加するストアブランドは増えている

 商品開発を通じて社会問題の解決を目指す動きもある。

 「ソーシャルウィノベーターズ」と協業で今年スタートした「041FASHION(オーフォアワン・ファッション)」プロジェクトは、筋ジストロフィーを持つ子供や車椅子に乗る女性のニーズを満たし、なおかつファッションとして誰でも楽しめるデザインを両立する服を開発する取り組みだ。

 041は発表後、SNSなどで大きな反響を得たという。「お客様の問題解決が価値創造につながる。対象商品を『可愛い』と感じて購入することで乳がんに対する認識を深めることや、多様性について考えるきっかけとなることも問題解決の一つと言える。ファッションは人の背中を押す力がある。こうした活動は続けていくべき」という。

041FASHIONプロジェクトで企画したフレアにもタイトシルエットにもなるジップスカート

◆店頭で輝き続けるために

販売員の評価制度でやりがいと誇りを

 創業以来、ユナイテッドアローズが重視しているのが販売員の地位向上だ。「お客様と接する販売員はファッション小売りの顔。やりがいを感じ、長く続けて欲しい」。その思いを形にするため、ロールプレイング形式の接客コンテスト「束矢グランプリ」を年1回開催しているほか、様々な施策を実施している。

 代表的な事例のひとつがセールスマスター制度の導入だ。店頭で大きな功績を上げた販売員の中から、厳しい基準と選抜試験をクリアした者だけに与える称号で、接客などで高いパフォーマンスを発揮し、他の販売員の見本となる存在として認められるほか、待遇などの面でも優遇される。

 セールスマスターの任期は2年だが、その後、更新審査に通ることでステータスを継続することができる。08年4月に8人でスタートしたセールスマスターは18年6月時点で65人にまで増えている。

 ユナイテッドアローズ 新宿店で働く二宮友美さんは03年の入社。もともと接客は好きだったが、「始めたころは、商品企画に携わる職種に就きたいと思った時期もあった」そうだ。その際、当時勤務していた店の店長に、「こんな道もある」と提示されたのがセールスマスター制度だった。

セールスマスター制度について「販売の仕事で会社に認められている喜びを感じる」と二宮さん

 店長の言葉をきっかけに、08年に第1期のセールスマスターに選ばれ、以来、そのステータスを維持している。この制度があることについて「好きな販売の仕事で会社に認められているという喜びがある」と言う。長く続けることで「様々なお客様への対応力が身につく」メリットも感じている。

 セールスマスターとして店頭に立つことは「会社の代表としてお客様に接することだし、他の販売員に背中を見せる役割もある分、良い緊張感がある」と言う二宮さん。一方で「販売職としてキャリアを極めるという選択肢があることは働き続けるうえで大切なこと」とも話す。


【竹田光広社長に聞く】お客様との信頼関係、守り続けたい

行動を通じて価値を創る

竹田 光広社長

 当社はお客様、従業員、取引先様、社会、株主様への5つの価値創造を行動指針に定めています。社会的な責任を果たすことや、従業員がやりがいを持って働き続けられる会社であること、持続可能な事業運営をすることは、この価値創造につながるものであり、我々の行動の根幹とも言えます。

 ここ数年、企業の価値を判断する基準として、収益性や成長性だけではなく、どのように社会に貢献しているかを市場が注視する流れも強まっています。5つの価値創造が今の我々に出来ているのか、常に自問し、創業来の原点に立ち返りながら、行動を見直し続けています。

 たとえば、自社で販売する商品の品質管理を徹底するために定期的に行っている取引先工場とのQCミーティングですが、この取り組みはお客様に喜んで頂くことはもちろん、安全、安心な商品を届けるために、企業としての当たり前の努力を重ねてきた結果、現在の形に発展しました。

 取引先の皆様には、日ごろ当社の活動に多大なご理解とご協力を頂いており、心よりお礼申し上げます。

 また、当社の店頭での様々な取り組みは、買い物袋の削減や使用済み衣料の回収、リサイクル、消費電力を抑えた店舗運営といった環境への配慮はもちろんのこと、リペア商品の販売、乳がんの早期発見の啓発活動につながるキャンペーンなど、そのほとんどがお客様の声に耳を傾けている現場の声から生まれたものです。

ずっと働きたい会社に

 従業員がずっと働きたいと思える環境の整備も、大切だと考えています。販売職として誇りを持って仕事ができることを目的に始めたセールスマスター制度をはじめ、従業員の6割を占める女性社員だけでなく、男性社員も含め、結婚や出産、家族の介護などさまざまなライフイベントを経ても働きやすいよう、産休、育休、短時間勤務制度の充実を推進してきました。

 以前、当社のイメージ調査を行った際、ユナイテッドアローズという社名に「信頼」や「信用」という印象を抱くお客様が多くいらっしゃるという結果が出たことがあります。現在進行中の中期ビジョンで、我々の強みを「お客様との信頼関係」としているのはこのためです。

 今までに築き上げたお客様から得た信頼を、これからも守り続けるためにも、ファッション小売りとして、より良い商品を販売し、利益を上げ、5つのステークホルダーに価値を提供し続けることのできる正しい会社であり続けたい。当社は今後も、そのための努力をしていきたいと思っています。

(繊研新聞本紙10月2日付)



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