ファミリーファッションブランド「アーチ&ライン」を手掛けるアーチ(東京)が、社会や環境に配慮した公益性の高い企業の国際認証「Bコーポレーション」(Bコープ)を取得した。コロナ禍を機に環境配慮型ブランドに転換し、コツコツと歩みを進めたことが実った。同社の年商は1億円。「事業規模に関係なく認証が得られるのがBコープの魅力」と代表取締役の小池直人さんは話す。
(金谷早紀子)
一から物作り見直し
環境配慮型ブランドへの転換は、コロナ禍にファッション産業が環境に大きな負荷を与えているという報道が相次いだことが背景にある。執行役員兼ブランドディレクターの長尾麻友子さんが「好きなように服作りを続けていては子供の目をまっすぐに見ることができない」と感じ、小池さんと共に物作りを一から見直した。
これまで素材を選ぶ基準は見映えや質感だったが、環境に負荷をかけないものを選ぶように変えた。21年秋冬物の時点で、カットソー製品に使う素材の9割をオーガニックコットンに変え、約半数の商品を環境配慮素材へシフトした。現在までに、カポック繊維を中わたに使用したアウターやリサイクルコットン混のデニムパンツ、再生ポリエステルのフリースジャケットなどを作った。販売を継続しているものも多い。仕入れ先にはトレーサビリティー(履歴管理)確保のためのヒアリングを実施している。
このほか、再利用可能なジップ付きビニールバッグの導入や、本社の電気の再生可能エネルギーへの切り替えを実施。ジェンダーバイアス解消に向け、オンラインショップで入力する個人情報の性別の項目を廃止し、百貨店に店があった22年には福袋の男女表記をやめ、クール、スイートのテイスト分けに変更した。環境問題について発信するインスタライブや、百貨店でリサイクル素材に関する子供向けのワークショップを開催し、卸先の企業や服飾専門学校生に向けて講義をするなど、思いを伝える活動にも取り組んできた。
両立する難しさ
もちろん葛藤はある。環境配慮素材を前提とするとデザインの幅が狭まり、選べる素材に限りがある。主力の子供服マーケットは価格にシビアなため、コストをそのまま反映することが難しい。「売り上げの確保と環境配慮を両立するための工夫が必要で、毎年手探り状態」と小池さん。デザインがおとなしくなったことで、取引を休止する店もあった。
一方で、その姿勢を評価し、そんなアーチだからこそ応援したいという企業の考えが知れたり、仕事の話しかしていなかった企業の担当者がジェンダーや政治、環境問題などを自分事として話をしてくれるようになり、関係が深まる出来事もあった。
Bコープの存在を知ったのはその過程でのことだ。数年前に自力でテストしてみると、既に90ポイントが取れていた(平均200問以上で80ポイント以上が取得基準)。「Bコープを取得すると、自分たちの取り組みが伝わりやすくなる」「環境配慮型の国内ブランドは少なく、一つの差別化になる」(小池さん)と考え、取得に向けて動き始めた。
今年の4月末に正式にエントリーし、9月末に認証を取得した。数年かけて取り組みを重ね、資料やデータを蓄積してきたことが短期間での取得をかなえた。
取得により、新たな販路の開拓や同じ思いを持った仲間との出会いに期待する。同社の渋谷区神宮前のアトリエを開放し、同業者、客を問わず集えるお茶会の開催も構想する。「自分の買い物のすべてが社会へ影響しているという認識を持ってほしい」(長尾さん)と、10月の衆議院選挙では初めて選挙割を実施した。目下の2人の目標は「Bコープ認証の更新が3年ごとにあるため、Bコープ企業であり続けること」。ブランドに占める環境配慮素材は現在7割を超えるが、「1%でも増やしていけたら」と歩み続ける。