プロレスラーの蝶野正洋氏が手がける「アリストトリスト」は、有名人のファングッズの枠では収まりきらないクリエイションやコアなブランディングを貫き、20年以上ファンに愛され続けている。デザインを手掛けるマルティーナ夫人の力も大きい。蝶野氏は、「これからも名前が独り歩きするのではなく、モノ重視の姿勢は崩したくない」と強調する。
異業種から参入
ブランドを立ち上げたのは、94年ごろからマルティーナ夫人が手縫いで仕立てていた蝶野氏のリングコスチュームが、海外の人たちから評判となったのがきっかけだ。アパレルに関心を持ったのは「90年代後半に人気だった米国のプロレス団体『nWo』がアパレルと組んだマーケティングに力を入れていたことを体感したこともある」と振り返る。当時は「高級外車を買うか」「ビジネスをやるか」で悩んだ結果、先を見据えてアパレルへの参入の道を選んだ。
00年から「リングコスチュームをストリートに落とし込む」をコンセプトに、黒を基調にトータルコーディネートするブランド、アリストトリストをスタートした。当時は裏原系ブランドと協業したり、アメカジブランドと組みジャンプスーツを販売したりもした。当初は東京の代々木上原に直営店(約66平方メートル)を構え、その後、恵比寿に移転した。「恵比寿店は好立地で集客力もあり、マネジャーも顧客管理をしっかりしていたので順調に成長した。卸販売はせず、その後ECをスタート。ECである程度の実績を上げるまでには数年かかった」という。
情報発信にも注力
当初は蝶野氏が現役プロレスラーとしてカリスマ的な存在だったこともあり、ブランドのファンも20~30代の肉体派の男性が多かった。最近ではビジネスに集中できる環境も整い、SNSや動画配信など情報発信にも注力。現在も主力顧客は40~50代のプロレス好きだが、洋服そのもののファンも増えてきたという。ロングセラーの商品はジーンズとサングラスだ。
単品専業との協業にも意欲的だ。今春に革小物のモルフォと組んで開発した財布はECで即完売した。ブランドのコンセプトの通り、黒1色で表側に牛革、内側にはワインレッドカラーの裏地を使用した収納力のある長財布(税込み3万8500円)。秋以降にはベルト、カバンと協業品を出す予定だ。販売戦略は基本的にECが中心だが、百貨店など商業施設内の期間限定店での販売も計画している。
なお、蝶野氏はビジネス以外に救急救命・防災活動をライフワークとしている。18年から一般社団法人ニューワールドアワードスポーツ救命協会と提携関係を結び、消防が行っている「救急救命や地域防災」の啓発を中心に、商業施設などでの防災イベントも開催している。