メゾンブランドのランウェイショーや路面店の少ないベルリンはパリやロンドンのようなファッション都市のイメージはない。しかし、そんなイメージは必要ないかのように独自のファッションシーンを築いており、本当にカッコイイものはアンダーグラウンドに潜んでいると言えるだろう。”ベルリンはオシャレじゃない”と言われるのは表面がそうだからであって、全体も同じように見えてしまうのだ。
しかし、私からしてみれば、90年代後半~2000年初頭の裏原に見るような一部の人間しかその世界に触れることが出来ない、情報を得るには”コネ”がなければ知ることが出来ないシーンが存在し、常にそこにリーチしたいと考えている。
そんなベルリンにおいて、表では変わらずファストファッションが蔓延る中、日本人デザイナーが手掛けるあるメンズブランドに目が止まった。それは、3シーズンめを迎えたばかりの『Gorsch the seamster』(以下、Gorsch)である。
同ブランドはメキシコ、ボリビア、NY、ロンドンなど様々な国に住み、非常にユニークな経歴を持つ鈴木詠一氏が手掛けるオーダーメイドブランド。鈴木氏はロンドンのセントラル・セント・マーチンズ在籍中に日本でも人気のFRANK LEDERでインターンシップをしており、現在もアシスタントとして所属している。
同時にベルリンの老舗テーラーであるSTUDIO ITOにもアシスタントとして勤務しており、仕立ての腕を磨いているという。フルタイム勤務の少ないベルリナーの中でここまで働いている人は滅多にいないことだろう。その努力と勤勉っぷりにはとても驚かされるが、そんな彼が生み出すGorschの世界観は完璧主義であり、オートクチュールの持つエレガントさも感じられる。
Gorsch the seamster 2017/18 AW Art Director: Hirofumi Abe, Photographer: Joji Wakita, Model: James Koji Hunt(*2017/18 AWの全ルックはこちらからご覧頂けます)。
アンティークマーケットで売られている小物やインテリア、ヨーロッパの年配の人たちのファッションが好きで、そこからインスピレーションを得ているという鈴木氏。普段着として着られるシンプルなデザインながら、生地、色、ボタンなど全てにこだわり、ステッチ1本1本に至るまで丁寧に作られている。ノスタルジックな雰囲気と重なり、作り手の温かみも存分に感じることが出来る素晴らしいコレクションとなっている。
Gorschはまだ型数もそれほど多くなく、スタートしたばかりのブランドであるが、今後要注目のブランドになることは間違いないだろう。将来的には日本での展開をメインに考えており、すでに感度の高いショップからオファーが来ているとのこと。大量生産では決して感じることの出来ない”自分のために作られた一着”を何年も何十年も大切に着ながら自分の人生の一部になってゆく。
本来ファッションとはそういったモノなのではないだろうか。古き良きものを大切にするドイツのこの街で出会ったGorschはそんなことを改めて思い出させてくれた。モノと情報に埋もれる今の時代、本来大切にすべき価値観に気付き、実行していく人も増えていくことだろう。実は、先日別の媒体でデザイナーの鈴木氏にインタビューを行った。そちらでは人生観や服作りへの思いなどより細部に触れているので、是非とも読んで欲しい。