北陸産地でニット、織物といった合繊テキスタイルや糸加工を手掛けるカジグループ(石川県金沢市)が「素材の価値を伝えたい」(梶政隆社長)と10月、東京・北青山にコンセプトショップ「CITAKU」(シタク)を立ち上げた。そのディレクターを務めるのが、オートクチュールデザイナーの上原コペルさんだ。
(高田淳史)
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◆着た人が一番輝く
始まりは、自社で作る優れた合繊機能素材を使って「レディスブランドを立ち上げたい」と思っていた梶社長との出会い。「服はたくさんあるが、今求められるのは自分の体に〝寄せる〟自分だけの服。既製服でありながらオートクチュール的な作り方と接客・販売するお店を作りませんか」と猛アピールを重ね、「あなたは本当にパッション(情熱)だけだね」と実現した。
梶社長はあえて言ったのだろうが、情熱だけではない。上原さんは、15年に紳士服地を使ったオートクチュールメゾン「メゾンコペル」を立ち上げ、ブラックドレス中心に顧客を徐々に増やしている。梶社長との出会いも、メゾンコペルの顧客からの紹介だった。
コンセプトショップ「シタク」は〝支度〟に焦点を当てる。「女性が身支度を整える場。そのための服や日用品を揃える」。カジグループがビルを1棟借りし、2階は主に生活雑貨、3階にオリジナルのレディスブランド「コペル」が並ぶ。1階には那須で人気の「ショーゾー・コーヒー・ストア」を誘致し、集客力を高めている。
コペルは、カジグループ初のレディスブランドだ。コンセプトは「着付けるドレス」。ブラックドレスを中心にコート、カーディガン、ボレロなどを揃える。3万8000~10万円。既製服だが、ベルトやボタン、襟の抜け感などで「手にした女性自身が自分の体や好みに合わせて、服の見え方やシルエット、丈の長さなどを調整できる」ようにデザイン、パターンを工夫している。「特別な日はもちろん、日常でも旅行先でも着る人が一番輝く服」を作る。
◆あえてハウスマヌカン
使う素材は、カジグループが北陸で作るナイロンやポリエステル、キュプラ「ベンベルグ」などを使った高機能素材が中心。カジグループの工場を訪れて多くの職人から話を聞き、「物作りへのこだわりとその技術に感動した」という。素材が持つ快適なストレッチ性、肌触りの良さ、撥水(はっすい)性、しわになりにくい、家庭洗濯できるといった機能性と「糸、生地職人が技術を積み重ねて作り出す合繊機能素材の素晴らしさを顧客に伝えるのが直営店の役割」として卸はしない。
自分を含め、販売員をあえて〝ハウスマヌカン〟と呼ぶ。「古い印象があるかもしれないが、オリジナルブランドを一番すてきに着こなし、服の持つストーリーを伝え、その人が一番輝く服を提案するプロ」と定義する。
「顧客の声を聞き、反応を確かめながら次のデザイン、服作りにつなげるという良い循環を生み出すのも直営店の役割」と自ら店頭に立ち、「ここ(シタク)でデザインもします」。顧客の要望をさらに実現させるため、今後はセミオーダーやオートクチュールも考える。
課題は、認知度を高めながら、どう顧客を増やし続けるか。「梶さんにいただいたチャンス、生かしたいし裏切りたくない。顧客一人ひとりと向き合い、経営を安定させる。もう必死ですよ」と笑う。「カジグループの素材は世界で評価されている。その生地で世界に通用する服を作り、世界のコレクションでデビューしたい」。夢は広がる。