「コムデギャルソン・オムプリュス」はこのほど、22年春夏コレクションをフィジカルのフロアショー形式で披露した。鮮やかなライトに照らされながら登場するのは、フラワープリントのロングシャツと解体されたジャケットの組み合わせ。膝までの長い丈のシャツはまるでシャツドレスのようなイメージだ。鮮やかな花柄を通して生命の持つ力を強調するとともに、ジェンダーを巡る新しい提案を感じさせた。
(小笠原拓郎)
コムデギャルソンにとって性差の超克というのは、長年にわたるテーマの一つ。男性らしさと女性らしさを超えたところにある新しい美しさを、これまで何度も描いてきた。しかし、ジェンダーを巡る新しい美しさも時代とともに変化していく。かつてコムデギャルソンが出したプリーツスカートも、今やマーク・ジェイコブスがはいてショーのフィナーレに登場するくらいポピュラーになった。
ジェンダーを巡る新しいアイテムやスタイルを考えた時に、川久保玲は男性の着るドレスに向かったということなのであろう。春夏はシャツやコートの体裁を取りながら、スタイルとしてはドレスのような見え方に仕上げている。フラワープリントのシャツやコートをジャケットとレイヤードすることで、シャツは膝丈のシャツドレスに、そしてコートはAラインのラップドレスのように使われる。
もちろん、ダイバーシティー(多様性)が叫ばれる現代、ドレスやハイヒールを男性服に取り入れるデザイナーは他にもいる。しかし、そうした場合の多くは、ジェンダーを超えたところにある美しさを探るというよりも、「ドレスが着たい、ハイヒールが履きたい」という女性の心を持った男性の欲望を満たすための服にとどまっているようにも思う。コムデギャルソンがしているのは、ドレスが着たい男性の欲望に応えるというよりも、ドレスというアイテムを使って男性服の概念をどう押し広げていくのかという思想からだ。だから、不織布にプリントした花柄のコートは、その素材感を生かしてアブストラクトでふわりと広がるシルエットとなる必要があった。
春夏は、そうしたジェンダーを巡る新しい考え方とともに、生命の持つグロテスクなまでの生々しさを感じさせるコレクションだ。白いシャツやコートの背中にアナトミカルなイメージのプリントと花を重ね、ジャカードコートの背中をスカルのように大きくくり抜いた。淡い花柄が持つ生々しいまでの力が、ジェンダーを巡るストーリーに迫力を添えた。