"見たことのないものを選ぶ"- 泉英一

2017/01/04 06:54 更新


 若い世代のファッションに対する関心や購買意欲が落ちていると言われている。背景にはさまざまな要因があるが、売り場の同質化が実店舗での購買意欲を変えたと見る向きもある。今、ファッションを売る小売業が考えなければならない課題は何か。デスペラードのスタンスから考えたい。

【前編】“東京の路地裏で商売がしたかった”- 泉英一

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■ 自由な空間を使って、デザイナーやお客様と話ができるようにしています。ルック時代の店から内装を変えて、キッチンを作って料理ができるようにしました。お客様に常にお茶を出したり、いただき物のケーキをお出ししたりしています。売る、買うだけじゃなくて、できるだけコミュニケーションを取れるようにしたいから。

 ファッションビジネスは編集する、ディレクションする、計画通りマーチャンダイジングして売っていくという仕組みになりました。でも、バイヤーは本来、感動したら感動した分だけ買えるものだと思う。他の店は、海外仕入れとか国内仕入れとか、昨年実績といった考えがあったりするのでしょうが、うちにはありません。常に一回一回ゼロからリセットしていきます。もっと直感的にやっていきたい。

 組織、システム、いろんなことが邪魔しちゃって、ファッションが面白くなくなっている。ファッションがもっとパッションになれば、サプライズや何があるんだろうっていうワクワク感も生まれてくる。うちは1カ月に1回、常に変わる店にしています。

■ 百貨店に行かれるお客様は安心や安全を求めている。ファッションビルに行かれるお客様は今の流行ものを求めている。うちに求められているのは次に何があるんだろうというネクスト的なもの。そういうものを新しいものの中から選んでいます。「JWアンダーソン」も「マルケス・アルメイダ」も最初のシーズンから仕入れています。「マルケス・アルメイダ」は、まだ彼らの売り先が3件だった時からです。

 完成されたものよりも、未完成のもののほうが勢いがある。出たてのブランドの勢いってすごいです。出来上がったブランドの完成度よりも、出たてのブランドの勢いのほうがパワーを感じます。そして世界で一番最初に買ったバイヤーっていうのは、デザイナーたちの記憶にずっと残るものだと思います。だから、一番最初に買うバイヤーでありたいし、そうなれた時は、バイヤー冥利に尽きますね。

 古いものの中にも良いものがある。新しいものの中にも良いものがある。トラディショナルやクラシックは他に任せて、うちは常に新しいものだけを集めています。そのやり方はルック時代から変わっていないです。「ドリス・ヴァン・ノッテン」を始めた時も、「ルメール」や「マーク・ジェイコブス」を始めた時もそうです。彼らがビッグになっただけです。でも、今はみんなビッグブランドをやりたがるでしょう。うちは海外、国内、人種、性別を問わず、試していくというやり方です。

 どうやって選ぶかというと、見たことのないものです。それを知るためにはできるだけ見ておくことです。とにかく量を見ることからしか質は選んでいけない。だから見続ける。シーズンに見るブランドの数は何千っていう規模だと思います。ネットは別で、じかに見たブランド数でです。

 もともとデスペラードはファッションとアートの融合、人と物の融合というのがコンセプトにあるので、お客様もファッション系よりもアート関連の人が多いです。長く通っていただけるもの、長く着ていただけるものを提供したい。でもそういうと勘違いしちゃうのは、長く着られるものっていうのはシンプルなものやノームコアとかじゃないってことです。デザインがあってもずっと着られるもの。グッドデザインを探したほうがいい。

ベルトをコーディネートの主役として発信
ベルトをコーディネートの主役として発信

 


■ 私たちは、グッドデザインをサポートしていかなければいけない。服にも便利さを求めてしまってはいけない。雑誌で取り上げられる1週間コーディネートとか、二通りの着方ができるとか、退屈で見ててもグサッと来ない。我々はファッションをやっていくわけだから、デザインを売っていくことに常に頭を置いていないと。作り手もそうでしょう。

 究極は自分の店でしか売れないブランドの集合体にすることです。この店は今15年で、あと何年続けられるか分からないけれど、常に新鮮じゃないと。そのためには、何を取り入れて、何を継続して、何を捨てるかです。この三つの選択をしていますが、それが正しければ常に新鮮でいられる。基本ターゲットは25~35歳ですが、15年経ってもやっぱり変わっていない。それは自分の感覚が通用しているということ。15年経ってずいぶん客層が上がってきたとなると、自分の感覚はその世代にしか通用していないっていうことだから。

デスペラードの外観。犬小屋もおかれ、自由な雰囲気が漂うスペース
デスペラードの外観。犬小屋もおかれ、自由な雰囲気が漂うスペース

 



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