「これからはウェブでも高額品を売る時代」と話すのは、エクリュデザイン(東京)の今栄健さん。上野商会で長く仕入れ業務を担当し、執行役員を務めた後、17年に独立。ウェブやマーケティングを学び、今では自らのECを運営しながら、複数サイトの成長を支援している。肝となるのがLINEを駆使した手法で、1月に自前で開設したサイトは既に1億3000万円の売り上げに。「3年間は、ライバルは出てこない。自分一人での限界値である10億円まで一気にいきたい」と話す。高額品もECで売れることを証明しようとしている。
(永松浩介)
26年ほどファッション業界で仕事をしてきたが、ECに対する業界の遅れが心配だったこともあり、独立後はウェブマーケティングなどを学ぶことに。退職金の多くを費やし、トップクラスのマーケッターに師事した。身につけたスキルで知り合いのウェブ運営の手伝いをしていたが、「こうすれば売れると言っても、教えただけでは中々やってくれなかった」。だったら、と自らやってみせることにし、あるクライアントのサイトで約16万円のバッグを1カ月で5個売ってみせた。
LINE駆使し成長
今栄さんが使うのは、日本の人口の70%をカバーするメッセージングアプリのLINEだ。その公式アカウントを機能拡張し、メールマーケティングを行うツールであるマネクル(東京)のLステップをフル活用している。Lステップは情報教材などの販売に多用されているが、物販では珍しい。アパレル向けにシナリオを作成し、ユーザーの属性や行動にあわせて半自動でセグメント配信する。
クライアントにはLINEの公式アカウントを作成してもらい、SNS広告などで集客、公式アカウントの友達になってもらう。その後は、テキストや動画、アンケートの投稿などを通じて、ユーザーを育成し、成約につなげる仕組み。実店舗のある小売りの場合は、トップ販売員による30秒から1分のセールス動画も有用だ。24時間365日、トップ販売員の接客を提供できるからだ。実店舗では販売能力に差があるが、公式アカウント内にいるのはトップ販売員だけ。動画撮影は手間がかかりそうだが、さほど凝ったものである必要はなく「1本の動画を撮るのに3分ぐらい」という。
絞り込みがコツ
一度動画を撮ってしまえば、後はほぼ自動化できる。商品が届いたころを見計らって商品のアフターケア動画を送ることもできるし、レビューを書いてもらったりもできる。「ここまで出来るとウェブ担当者は最小人数で済む」と今栄さん。
LINEの公式アカウントは数百万あるが、「99%はうまく使えていない」。例えば、大手で友達の数が十数万単位でいても、ユーザーをセグメントできていないと配信通数だけコストがかさんでしまう。肝となるのがユーザーの質。たくさん集めるのではなく、買ってもらえそうな見込みのある顧客に絞り込んでいくのがコツだという。サイトの客単価を3万円と仮定すると「1000人友達がいれば、1億円は売れる」と話す。
「ECでは高いものは売れない」というのは日本では定説だが、海外ではそうと限らない。ファッションで言えば、英国の「ファーフェッチ」があり、中国では普通に自動車も販売している。国内でもBMWは1800万円超の限定車7台を3分で完売させた。「オンラインでもきちんと接客し、顧客育成すれば5万円でも10万円でも売れる時代になってくる。先入観で売れないと思っているが、やり方を知らないだけ」とも。
今栄さんが一人で運営するサイト、「グッド・フォー・スリー」は、かばんやスニーカー、服飾雑貨などを販売。秋からはアパレルも扱う。一点単価が30万円ぐらいのものもあるという。2月ごろにサービスを始め、現在クライアントは5社ほど。LINEの動画配信によるシステムは、「3、4年後の業界のスタンダードの一つになるはず」と話している。