《第10回ファッションECサミット》OMOの現在地 新たな顧客体験へ

2022/07/14 06:28 更新


 繊研新聞社は6月に第10回「ファッションECサミット」をオンラインで開いた。ECの優秀・注目のサイトと支援ツールを選ぶ第5回「ファッションECアワード」の表彰式と受賞企業などのウェビナーを開いた。

 基調講演は「ファッションECアワード」のECサイト部門で受賞した4社の担当者が「OMO(オンラインとオフラインの融合)現在地~新たな顧客体験への施策と運営~」をテーマにディスカッション。サポート賞に選ばれた2社や注目のサービスプレゼンテーションも開かれた。その一部を抜粋する。

《基調講演登壇者》

  • アダストリア 執行役員マーケティング本部長 田中順一氏
  • タビオ 代表取締役社長 越智勝寛氏
  • ファーストリテイリング グループ執行役員 ユニクログローバルEC事業責任者 日下正信氏
  • ユナイテッドアローズ 執行役員CDO マーケティング本部本部長 藤原義昭氏

●OMOで描く新たな顧客体験とは?

 OMOは目的でなく手段という声が全登壇者から挙がった。国内EC売上高1269億円(EC比率約15%)、アプリダウンロード数3000万のユニクロの日下氏は、「店に行かなくてもフラッグシップのような感動体験ができること」をOMO推進の理由とした。現在は店舗受け取り、「オーダー&ピック」の利用が多く、店舗受け取りは全体の3~4割を占める。

ユニクロ 日下氏

 3月に自社ECを刷新したユナイテッドアローズの藤原氏は、最寄りの店舗に気になる商品を取り寄せて試着できるサービスを紹介。「お客様が何を求めているかからスタートし、不快を快に変えていくことが重要」と話した。

 SNS活用で成果をあげ、全EC売上高が23.1%増(22年2月期)と伸長しているタビオの越智氏は、「SNSでバズった瞬間に、生産、店頭がいかに早く対応できるか」と言及。生産現場とも距離が近いことを強みに、「生産から販売まで一気通貫のOMOを構築し、新しい体験が提供できたら」と独自路線を磨く。

 アプリの会員数1400万人超、アプリユーザーの売り上げが7割超のアダストリアの田中氏は、「店舗スタッフがSNSを含めてもっとお客様とつながりたい、自分の影響力も培いたいと言うなら、それが出来るような仕組みを作る」と、人の思いが起点と説いた。

●OMO推進の運営ポイントは?

 他部署との連携など、枠を超えることが重要という思いが共通した。日下氏は、全社改革の有明プロジェクトを紹介。部署間の壁はつきものだが、例えばファーストリテイリングを今創業するならどう作るかをゼロベースで話すと、「枠を超えた働き方や仕組みへの意見がおのずと出てくる」。「お客様を中心にして全てを動かそうとすると、連動は不可欠」とみる。

 機能別組織に改編したユナイテッドアローズは、「横連携で協力しないと物事が前に進まない」と藤原氏。評価や組織組み、チーム組成の重要性を指摘した。

 田中氏は、リーダーと現場の役割の違いに言及。「ECやデジタルは変化が早いため、リーダーはどこに向かうか、何をするか、どういうチームでやるかを決めることがすごく大事。現場は、自分の垣根を超えて情報を得ることが重要」と説いた。

 越智氏は、自身がユーチューブやツイッターなどを運用した経験を紹介。「経営陣がデジタルを理解していないと、人選を誤ったり、リスク管理を優先してチャレンジできなくなってしまう」と、経営者視点から発言した。

タビオ 越智氏

●店舗スタッフとの連動は?

 全員が店舗の重要性を強調し、現場だから生まれるアイデアをデジタルにも取り込もうとしている。「ダイレクトでお客様とつながれる時代、店舗スタッフはオフェンスにまわれる」と田中氏。会社側は「オフェンスをどう発揮しやすくするか、POSなどの作業面のディフェンスをいかに簡単にするかを考えるべき」とみる。


アダストリア 田中氏

 日下氏は、「現場のスタッフにヒントがある。問題があったら現場に行き、持ち帰らず本部に電話してそこで解決する」と対面でのコミュニケーションの重要性を説いた。

 越智氏は、「店舗だけでなく、取引工場にも気軽に足を運ぶようにしている」と、同社ならではの発言も。

 藤原氏は、「ECで施策を打っても店舗スタッフに落とし込まれておらず、お客様に言われて初めて知るということがある」として、「伝わっていないのは言っていないことと同じ」と強調。「互いがプロフェッショナルとして、リスペクトを持って伝えることが大事」と話した。

ユナイテッドアローズ 藤原氏

●EC、デジタル戦略で目指す未来は?

 田中氏は、「ドットエスティは、単なるECでなく、デジタルで得た顧客接点を生かして、新しいエンターテインメントコミュニティーを形成したい」と、物販だけでない価値提供を示唆。

 日下氏は、「ユニクロが掲げるライフウェアを服のインフラにするために、情報製造小売業を掲げて産業自体を作り変えるつもりでやっている」と強調。そのためには、「店舗スタッフもMDも生産もみんながECの仕事に携わり、関係ないという人を一人もいない状態にしたい」と語った。

 越智氏は、「お客様の商品や生産に対する要望にいかに柔軟に対応するか。自分たちの強みを信じて、日本の靴下産業に関わる人たちを永続させていきたい」と意気込む。

 藤原氏は、「店舗やECはメディアかつコミュニティー。ここで買って良かったと感じてもらえることをしていきたい」と話した。

アワードの表彰式。前列右から、アダストリア、ユニクロ、タビオ、ユナイテッドアローズ、後列右からアウージャパン、ビジュモの受賞者。(後列左は初の殿堂入りとなったバニッシュ・スタンダード)

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