これがファッション×テクノロジー市場だ!

2015/12/31 06:05 更新


《ファッションテックマップ》ファッションビジネスの様々なシーンをアップデート


 ファッションとテクノロジーを掛け合わせた領域〝ファッションテック〟の動きが目まぐるしい。スタートトゥデイのコーディネートアプリ「ウェア」経由のEC売り上げが月間10億円を突破し、「メルカリ」「フリル」といったフリマアプリが若者を中心とした消費者に普及、今秋にはファッションとデジタルに特化した専門メディアも立ち上がった。

「ウェア」
「ウェア」
「メルカリ」
「メルカリ」
「フリル」
「フリル」

 AI(人工知能)のECへの搭載やバーチャル試着を可能にするデジタルミラー、グーグルによるウエアラブル端末の実験など、枚挙にいとまなく、ファッションビジネスの様々なシーンをアップデートする可能性を秘めている。この領域を俯瞰(ふかん)し、「ファッションテックマップ」を作成・公開しているスタイラーの小関翼社長に、全体像と世界と比べた際の日本の状況を解説してもらった。


「ファッションテック」とは何か?

 ファッションテックとは文字通りファッションとテクノロジーを掛けあわせた造語です。テクノロジーを活用してファッション業界を活性化させることを目指した商品、サービスを生み出そうとする動きを指します。業界活性化を目的とし、対象は広範にわたっています。

 ユーザーとの接点であるショップ内でのコミュニケーションや、ECでの売り上げを拡大するツールに始まり、アパレル生産や流通の効率化をテクノロジーによって前進させる商品やサービスもファッションテックに含まれます。海外では近年、ファッションテックを促進するために、Decoded Fashionや、New York Fashion Tech Lab、FashTechというイベントの事業者が出てきています。Decoded Fashionはコンデナスト・ジャパン主催で東京でも15年に開催されました。


日本における企業活動や市場形成は、
世界と比べてどんなステージにあるのか?

 日本のファッションテックは、IT(情報技術)関連全般に見られる傾向と同様、アメリカで生まれたサービスが1、2年遅れで日本市場で応用・展開されるケースが多いです。この分野でもアメリカはやはり進んでいます。アメリカの素晴らしい点は、事業者たちの存在はもとより、Decoded Fashionに代表されるような、周囲で盛り上げる人・団体・活動が盛んなことです。日本はそういった活動が不充分です。事業者は存在しますが、動きが散発的で、横の連携は一部にとどまり、面としての広がりに至っていません。

 今、世界中でファッションテックの動きがあり、どこの国・都市がファッションテック分野の世界的ハブになるか注目されています。ロンドンがフィンテックのハブの地位を確立したように、ファッションテックハブはどこか、とそんな状況です。そんな中で、今年Decoded Fashionが東京で開かれ、創始者のリズ・バセラー氏が開催理由について触れていました。

 「東京で開いた理由は、コンデナスト・ジャパンに呼ばれたから」だけだったのです。中国に呼ばれていたら中国で開催していた、いうことなのでしょう。このことから、日本がこの分野で中国やその他の国・都市のステージと何ら変わりがないこと、そしてアメリカ主導のフォーマットに乗っかっている段階で、日本主体で盛り上げる存在に欠いている、ということです。

 一方、その出遅れた状況から日本はファッションテックのハブを狙えないかというとそうでもない。日本は一つの国内で、生産から消費まで層の厚いファッションビジネスが存在し、他国と比べファッションテックを育む土壌として有利です。下の図は経済産業省が14年に発表した、各地域のファッション産業の価格別ピラミッドです。

経済産業省「日本ファッション産業の海外展開戦略に関する調査」2014から
経済産業省「日本ファッション産業の海外展開戦略に関する調査」2014から

 下からファストファッション、ミドル、ラグジュアリーになっています。日本は若い世代も含め、ミドル価格帯のブランドを多く楽しんでいるのが特徴です。このセグメントは情報リテラシーが高く、購買意欲も旺盛な消費者によって支えられています。ファッションテック企業が横のつながりを持ち、世界的に存在感や地位を高めていけば、ハブ都市として認知される可能性は充分にあります。

ファッションテックマップ、
見るべきポイントは?

 

ファッションテックマップ15年11月
ファッションテックマップ15年11月

 ファッションテックマップは、近年、数多く立ち上がるファッションテックの商品、サービスを見取り図にしたものです。今後、更なる市場拡大が見込まれているファッションテック企業を俯瞰する際に、案内として活用いただくことができます。今後は年に2回更新する予定です。大きくB2BとB2Cに分かれており、ファッションビジネスに特に関連の深い主なカテゴリーの状況は以下の通りです。

《B2B》

デジタルファブリケーション
(Digital Fabrication)

 グーグルが「プロジェクトジャカード」を発表するなど、繊維センサーなどの開発によって、究極のウエアラブル端末ともいえる服のデジタルデバイス化が本格的に進んできています。併せて、デジタルプリントに代表されるような、生産ロットの制約に縛られず、少量から手軽に、様々なデザインやパーソナライズ対応を実現したファブリックの生産が広がっています。機能性や利便性はまだまだ未知数ですが、近い将来に大きな注目を集める可能性があります。

「プロジェクトジャカード」
「プロジェクトジャカード」

バーチャルフィッティング
(Virtual Fitting)

 アパレルECの最大のウイークポイントであった試着をバーチャルで済ませることを可能とするサービスです。画像認識やVRなどのテクノロジーの進歩によりバーチャルで違和感なく試着出来る世界に近づきつつあります。例えば「バーチャサイズ」はECのコンバージョン向上に役立ち、「メモミ」(memomi)のようなデジタルミラーは店頭の購買体験を新たにします。将来、自宅でEC決済する際、デジタルミラーやARでバーチャル試着を実現できたら有用だろう、とも想像しています。

「バーチャサイズ」
「バーチャサイズ」
「メモミ」(memomi)
「メモミ」(memomi)


《B2C》

バーチャルスタイリスト
(Virtual Stylist)

 おしゃれはしたいがスタイリングが分からない人は多くいます。ショップ店員やおしゃれな人のコーディネートをメディア的に取り上げたり、プロのスタイリストからアドバイスをもらえたり、はたまたAIがレコメンドしてくれたりと、種々のアプローチでスタイリングを提案してくれます。EC化率の引き上げが容易ではない中で、この機能を有効活用すれば、もう一段のEC拡大につながるはずです。

 「ポリボア」(POLYVORE)と「ウェア」(WEAR)は多くのユーザーを抱えており、サービスによる決済・流通額も膨らんでいます。新興でユニークなところで「ドンデ」(donde)があり、検索に非言語(デザインや色)を取り入れ、ユーザーの好みと商品のマッチングの精度を高めています。非言語は世界展開する上でも有用です。「ファインドシミラー」(Find Simillar)はユーザーが欲しい服の画像をアップロードすると、人工知能の解析によって似た服を収集して表示します。

「ポリボア」(POLYVORE)
「ポリボア」(POLYVORE)
「ドンデ」(donde)
「ドンデ」(donde)


クロージングサブスクリプション
(Clothing Subscription)

 遊休資産を共有しあうシェアリングエコノミーは、様々な業界でも注目を集めています。毎月決められた金額を支払い、服やアクセサリーをレンタルできるサービスも徐々に社会的な認知を広げています。古くて新しい分野と言え、日本の成功例はまだ多くありませんが、いくつか事例は生まれています。

 着用機会が限られ、所有するよりシェア・レンタルの効率が高いパーティーシーンに絞ったのが、ドレスや高級バッグのレンタルを行うアメリカの「レント・ザ・ランウェー」(Rent The Runway)です。日本はパーティー文化がないので工夫の必要はありますが、ブランドバッグレンタルの「ラクサス」(Laxus)はこれに近いです。一方で、日常の全ての服をレンタルで賄う人はいないので、「エアクローゼット」(airCloset)や「サスティナ」(SUSTINA)などのサービスは、ユーザーが割高感を抱きやすく、値決めが難しいという課題があります。

「レント・ザ・ランウェー」(Rent The Runway)
「レント・ザ・ランウェー」(Rent The Runway)
「ラクサス」(Laxus)
「ラクサス」(Laxus)
「エアクローゼット」(airCloset)
「エアクローゼット」(airCloset)

「サスティナ」(SUSTINA) 「サスティナ」(SUSTINA)

 そして、通常レンタルサービスの商品が古着であることから人気アイテムは在庫がなく、サービスが拡大しにくいという問題もあります。この問題をクリアすると見られるのが、クロスカンパニーの「メチャカリ」です。メチャカリは新品かつ自社ブランドの展開なので、そのリスクを抑えられます。データの蓄積や定期的な客とのコミュニケーションにもなり、アパレルブランドがロイヤルカスタマーの囲い込みに使うのは有用でしょう。例えばシャツブランドから、パリッとしたシャツが毎月届くとかいいですよね。

「メチャカリ」
「メチャカリ」

今後の課題や成長を続けるための条件、
特に期待される分野は?

 パーソナライズ(Personalize)がキーになっています。B2BでもB2Cでも、データをいかに活用して一人ひとりのお客様に合った服を作るか、売るか――を目指したものが多いです。ただし、ファッションだからといって、他のテクノロジー分野と比較して特別視する必要はないかと思います。衣食住の「食」と「住」でもパーソナライズ化したプロダクトの作成や、情報提供がキーになっており、それと同じことです。

 Eコマースには第3の波が来ていると考えています。第1世代は洋服をインターネットで販売していました。ただし、ファッションは売り手と買い手で情報の格差が大きいので限界があります。その情報格差を第2世代はコーディネートやビジュアルで補っていました。先ほどのビジュアルスタイリストの領域です。

 私が考える第3世代は、コマースにコミュニケーションが積極的に介在します。もちろん、既にいくつかの事例が発生しています。例えば、タオバオ(淘宝)など中国のECはチャットの組み込みが普通になっています。アジアでは、パソコンの前にスマートフォンが普及し、コミュニケーションアプリがECのプラットフォームと化しています。「フェイスブック」や「インスタグラム」で店とユーザーがやり取り、値切ったりもして、売買や決済が成立しています。

 フリマアプリ「メルカリ」も、ユーザー同士が話し合いながら値段が決まっていて、コミュニケーションソフトを兼ねている状況です。私たちが提供する「スタイラー」も、ライフスタイル分野のコミュニケーションプラットフォームを目指しています。


スタイラーとは?
 「つながりでファッションを楽しくする」をコンセプトに、ショップとユーザーがコミュニケーションするアプリ「スタイラー」(STYLER)を運営。ユーザーは気軽にファッションの相談をアプリで行うことができ、ショップは手待ち時間を利用して新規顧客の開拓ができる。オウンドメディア「STYLER MAG」もある。

「スタイラー」(STYLER)
「スタイラー」(STYLER)

 また、日本のファッションテックシーンを盛り上げるために、自社内に「Fashion Tech Lab」を設置し、取材およびファッションテック企業同士のつながり作りに奔走。16年には、日本のファッションテック事業者自らによるイベント「Fashion Tech Summit」(仮)の開催を予定。東京をファッションテックのハブ都市にすることも目指している。

(※マップの内容に関する問い合わせ先=info@styler.link)



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