柳井会長兼社長インタビュー
《会社を変え産業を創る ファーストリテイリングが描く未来》すべての境界を取り払うファーストリテイリングは、15年を「全員経営を本格化する年」と位置づける。経営者から販売員に至るまでの意思疎通だけではなく、グループの全ブランド、世界中の店舗、ネットとリアル、企画、生産から物流、店頭まで、各プロセスの境界を取り払い、グローバルな一体経営を推進する考えだ。「会社を仕組みから変え、新しい産業を創る」という柳井正会長兼社長に聞いた。
"同じ価値観を持つマネジメントを1人でも多く、できるだけ早く育てたい"
ー14年度は、同社が「グローバル1」と呼ぶ全員経営ができる土壌が整ってきた年だったという。
昨年、ユニクロでヨーロッパ、アメリカでも20~30くらい出店できるような状況になった。ベルリン店やフランスのル・マレ店が日本の文化発信の場として評価され、本部、各市場の法人で現地の経営者も増え、マネジメントのグローバル化も進んだからです。世界中で行き来する人々が各国のユニクロの店を実際に見てそれで認知度が上がったということもある。
中国、アジアだけでなく、欧米、オーストラリア、環太平洋と出店を広げ、今後はさらにインドへの出店も視野に入ってきた。我々のやりたかったことが実現できる時代になってきた。今年は、かねてから言ってきた「グローバル1」、世界レベルの全員経営を現実のものにします。今期(15年8月期)は、200店は出店したい。そのため全社で50人くらいの執行役員を200人に増やしたい。
簡単なことではないが、各国の事業は1000億円以上の規模にしたいと思っていて、そこまで拡大するとなれば、しっかりした経営者のチームがないとできない。社内育成でも社外からの登用でも、同じ価値観で1人でも多く、出来るだけ早く作る必要がある。
"ネット販売で世界最大の旗艦店を作ることが、物流を高度化する最大の目的"
ー大和ハウス工業と組み、物流機能の高度化にも着手した。グローバルな店舗拡大を実店舗だけでなく、バーチャルな世界にも広げるためだ。
単純に(大和ハウス工業との提携は)物流倉庫を作るってことではない。ネットでモノを売るときのネックは物流なんです。自前で物流機能を持てば、店舗を介さず、作る側と売る側が直接つながることができる。店で買う、ネットで買う、どちらにも対応できるし、お客様との距離と時間を今より縮められる。
そうすればお客様の反応、作り手の意図が双方向で国境を越えて速く伝わる。企画、デザイン、生産、物流、店頭での販売、すべて同期しながら同時進行できる。日本でうまくいけば、海外でもやろうと思っています。
自前の物流倉庫を起点にすれば、実店舗より多くの商品が置けるので、ネットのバーチャルな空間との組み合わせで、あらゆるユニクロの商品を品揃えできる。(提携の)最大の目的は、ネット販売で世界最大の旗艦店を作ることなんです。
"地域密着とグローバルは共存できる。店は地元と共生し、世界ともつなげる"
ー国内では、ユニクロで地域正社員の拡大や「地域密着型店舗」の開発など、働き方や出店立地との共生も重視し始めた。
チェーンストアで一番問題なのは「顔」がないってこと。どこに行っても同じという店はもう作りたくない。1店ごとに全部違って、出店した地域の住民や企業と共存して、我々の店があるから集客力が上がる。お互いの相乗効果を感じ合って地元から愛される、そんな店を増やしたい。
極論ですけど、店長や販売員がずっとその店にいて、地域の人たちとコミュニケーションを取りながら、どんな商品がそこでは売れるのか、一所懸命に考える。そういう働き方もあっていいんです。ただ、同時に世界の情報もその店には入ってきて、それも品揃えの参考にできる状況も確立したい。
SNS(交流サイト)で情報が世界中にあっという間に広がる時代ですけど、あれって要は口コミなんですよね。より速く、広範囲に伝わるだけのことで、そもそも良い商品、良い店でなければうわさになんかならない。地域密着もグローバルも本質は同じ。地域密着化とグローバル化が共存できる、そういう商売のやり方をこれからはしたいと思っています。
目標を共有するために明言
”クリエーティビティーとは、新しい未来を切り開くために創意工夫を凝らすってことです”
ー数々の大手企業のブランディングで手腕を振るってきたジョン・C・ジェイ氏をクリエイティブ統括に起用した。
我々がやってきた服のイノベーションの最初の例がフリースです。あれが爆発的にヒットしたのは、(広告を手がけた)ジェイ氏のクリエーティブがあったから。クリエーティブっていうことは、平たく言えば創意工夫ってことです。創意工夫があって初めて物事の新しい面が見える。
そのためにジェイ氏の力が必要だった。イノベーションとクリエーティブが合わされば、新しい未来を創ることができるのではないか、そう思っているんです。今後、グローバルに当社のクリエーティブを統括する立場で、彼が世界中からクリエーターを集め、マーケティングから商品開発まで、チーム作りをやっていきます。
今年早々から彼とは一緒に会議に出て、世界中を回ってもらう。一心同体で動きますよ。実を言うと、僕もジョン・C・ジェイも後継者を作りたいんですよ。クリエーティビティー、経営それぞれの面で世界中の才能を集めて育てたい。
”これまでの産業は分業。一気通貫で分業をつなぎ新しい産業を創る”
ー全員経営、物流機能の高度化、地域密着とグローバルの両立、クリエーティビティーの強化。一連の施策で新しい産業を創り出したいという。
今までの産業って、繊維とか、小売りとかアパレルとか、そういう区分で、つまり「産業」ではなく「分業」でしょ。僕らはデザイン、生産、販売、マーケティングまで全部一気通貫で境界をなくしてお客様のニーズに応えたい。そういう進化をすることで、新しい産業を創りだそうと思っているんです。
それには今までの仕組みを全部変えないといけない。ネットの発達で世界が同期し、経済も一国でなく、相互に影響しあう時代になった。グローバルに考える、それが、たとえば日本でももっと売ることにつながると思うんです。
我々は、お客様に満足していただいて、次も来てもらうために存在しています。それを具体的な行動でどうやるか。販売員、店長、経営者、それぞれの人間的な結びつきが大事です。だから全員経営なんです。互いの考え方を尊重しつつ、目標は同じというチームにならないといけない。難しいけどそれをすることで新たな産業を創ることが出来ると思う。
”ナンバー1を目指すのは、明確な目標がなければ、組織も人も変わらないから”
2020年度に売上高5兆円で世界ナンバー1のブランドになる、そのために3年後には売上高2兆5000億円で「H&M、インディテックスに並ぶ」。柳井氏は折に触れ、具体的な数値目標を公の場でぶち上げる。
彼ら(H&Mとインディテックス)は、すでに世界で金メダル組なんですよ。だから(定量目標は)言う必要がない。我々は全員でそこを目指しているわけです。明確な目標がないと、そのためにどういう組織が必要か、働く全員がそのためにどんな知識を身につけなければいけないか、考えない。
昨年話題になったテニスの錦織圭選手とノバク・ジョコビッチ選手はユニクロのブランドアンバサダーなんですが、彼らもナンバー1を目指しているから今の地位に上り詰めた。50位で良いと思っていたら、そうはなれなかった、そう思うんです。
当たり前ですが、言ってもなれるかどうか分からない。でも、少なくとも、世界ナンバー1になるってことを言わない限り、企業もそこを目指さない。だから、皆で何を目指しているのか、共有するために(定量目標は)言っているんです。
※2015年1月5日、6日付けの繊研新聞1面に掲載された連載を転載したものです。