服屋とは何か―FR柳井会長兼社長に聞く

2017/02/24 14:01 更新


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顧客中心でなければ成長できない

情報をいかに商品にするか

 ファーストリテイリングは、客の声に即応できるスピードを備えた「情報製造小売業」へ変わろうとしている。商品企画、生産、販売の仕組みを従来型のファッション産業とは全く違うものに組み替えることで、全世界で進むグローバル化とデジタル化の波を捉え、成長を続けるためだ。最新のテクノロジーを取り入れる一方で、人間同士の生の触れ合いが生み出す価値を大事にする企業運営が不可欠と、柳井正会長兼社長は話す。

(柏木均之)


■世の流れに沿った服を

 16年8月期は増収ながら減益。20年に連結売上収益5兆円としていた中期目標を3兆円に引き下げた。昨年は自社にとって転換期だったと言う。

 売り上げを1兆円から3兆円にするには、会社の体質も構造も変える必要がある。どうすべきか、考えた年でした。前期業績の低迷は円安に伴い、商品価格を上げたことが大きいのですが、お客様の賃金が実質的に上がっていないのに、値上げすれば、拒絶反応が出るのは当然。

 昨春から値下げし、売り上げは戻ってきていますが、今は日本だけでなく全世界で服が売れていない。不況もありますが、市場を見渡すと、同じものを同じように作って、SCの店に並ぶ商品は見た目も価格も一緒。それでは売れないですよね。

 財布の中のお金は服だけに使われるわけじゃない。今は服より、携帯電話やそれでやるゲームなどに使う金額の方が多い。他産業に勝てる、魅力ある商品を開発して売っていく工夫が足りない。世の中の流れに沿った服を作らないといけない。

 ユニクロの答えは「ライフウエア」だ。服屋としての姿勢を「なぜ服を着るのか」という問いに込め、市場に伝えようとしている。

 世の中の流れに沿った服の定義は企業によって違う。自社の置かれている立場や過去、現在、未来を俯瞰(ふかん)して、世界がどう変わるか、考えて見いだすものです。ユニクロのそれは、あらゆる人が着られる、新しい服。究極の普段着ってことです。

 流行はファッションの主要な要素ですが、追うこと自体が目的では同質化する。何のために服を作るのか、会社が何のためにあるのか。市場でのポジションを明示していかないといけない。使命や生き方を本当に追求し続ける企業でないと、生き残れない。これから古い体質の企業は縮小すると思います。

 昨年、株主向けのメッセージに「この3年間で業界は完全に変わる」と書きました。もう2年しかない。ウーバー(自動車配車サイトまたはアプリケーション)とか、エアB&B(ネット上の民泊斡旋(あっせん)事業)が出てきて、移動手段を所有する必要がなくなり、旅行での宿泊先の選択肢も広がった。

柳井正ファーストリテイリング会長兼社長

 

■ハイテク+人間の心配り

 グローバルに急速にネットで広がる情報をいかに活用するか、ファッション企業にも問われる。

 変化はファッションでも起きている。アマゾンがPBの服を売り始めた。彼らは日本の繊維産地にも足を運んでいます。グーグルも含め、ネット上の成長企業はあらゆる商品を売ろうとし、あらゆる情報を伝えようとしている。今は情報を持っている者が最終的に勝つ。10年前の時価総額のトップ10はエネルギーの会社がほとんどだった。今はほとんどハイテク。産業がシフトしている。

 アンチの動きも出ていますが、グローバル化はもはや止められない現実。世界の大部分の人にとって、今はすごいチャンスがある。デジタル化もあらゆるビジネスで、IoT(モノのインターネット)化、ビッグデータの世界になってきている。

 ただ、商売は情報だけじゃどうしようもない。本当に良い商品をお客様が納得する価格で売れるところが強い。大事なのは、どういう商売をして生きていくかで、デジタル化はそのための手段。情報は誰にでも同じ速度で伝わる。これからはカスタマーセントリック、お客様中心でビジネスが出来ないといけない。

 人工知能が発達して、人間でなくていい職種が出てくるとか言われてますけど、ファッションの商売で成長するには、「ハイテック・ハイタッチ」。高度なテクノロジーと、生身の人間の細やかな気遣いの両立が求められると思います。

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デジタル化は原点回帰の好機


■1フロアで一緒に働く

グローバル化とデジタル化が否応なく進む中、ファーストリテイリングが目指すのは顧客中心主義の会社になること。今年、有明の物流センターが稼働する。

 本社機能のうち、商品や商売に関わる、かなりの部分を人員ごと有明に移します。1フロアが今の5倍あるので、同じフロアで一緒に仕事が出来る。どこででも誰とでもつながれる時代ですが、距離感を縮めて仕事をしないと、気持ちや目指すものが一緒になっていかない。

 ネットで集めた膨大な情報を分析して商品化すること自体は、どこも同じことがやれる。それでは売れ筋が一瞬で死に筋になる。買う人いないよね。だから、あなたの会社は何のためにあるのかが問われる。自社の基準や品質、お客様の嗜好(しこう)などを考えて作らないと服が売れない。有明の1フロアは、それを確認し合うために大事なんです。

 商品、商売の仕組みを変えるだけでなく、企業の姿勢を様々な形で市場に伝える努力も必要と考えている。

 昨年11月にCSR部をサステナビリティ部に変えました。社会的責任に対する目線を広げるためです。天変地異や戦争が起きたら服屋は商売どころじゃない。平和な世の中を本気で作る姿勢がないと、うまくいかない。そのためにできることはやる。

 取引内容も全て透明化していきます。どんな素材でどこの工場で縫製して、どういう経路で持ってくるのか。今まではあえて言わなかったのですが、そういうことを気にするお客様が増えていますから、これからはしっかり開示し、伝える努力をします。

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■服屋の姿勢は人が伝える

 変えるのは本社の機能や働き方、情報発信だけではない。店での売り方、従業員の働き方も市場で評価される形へ最適化したいと考えている。

 ネット以上の買い物体験ができない実店舗にお客様は来ない。良い商品を作っても伝えないと売れない。どういう服屋なのか伝えないと選ばれない。我々でいうと、ユニクロは「ライフウエア」という究極の日常着で、ジーユーは、顧客ニーズに合ったファッションをスピーディーに市場最低価格で売ること。

 その姿勢をちゃんと伝えられる販売員が大事です。店頭業務の単純労働はロボットや機械で合理化していく。販売員の仕事は知識労働になる。お客様に、服の着こなしやサイズ感、フィットを伝えることが仕事になる。今は全然出来ていませんが、そういう風に販売員の働き方も変えていく。どんな店で売るのかも、今後、時代が変われば変えないといけない。  

 理想的には昔の商店街みたいに他の店で売っている、ファッションじゃないもののことまで店員がお客に教えられる、個店に近い店作りをしたい。そのことがどんなライフスタイルの従業員でも無理なくできるように、地域正社員など、働き方の多様化を進めてきたんです。

 1社で市場を独占することはできない。うちの店にある商品がファッションの全部なんてあり得ない。個々の企業が自社に適した作り方、売り方を考えて企業運営をする。グローバル化とデジタル化が進むってことは、ある意味、商売の原点に返るということだと思います。

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