【パリ=松井孝予通信員】トランプ関税を受け、アジア製衣料品の欧州市場への流入が加速する兆しを見せている。フランスのファッション産業は価格競争の激化と、売り先を求めて動く流通構造の変化に対し懸念をにじませている。
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米国市場での販路縮小が見込まれる中、中国やバングラデシュ、ベトナム、カンボジアといった生産国が欧州に軸足を移す可能性が高まっている。EU(欧州連合)はベトナムと19年に自由貿易協定を結んでおり、20年以降、EU向け製品の99%にかかる関税が26年末までに段階的に撤廃予定だ。また、カンボジアとバングラデシュはLDC(後発開発途上国)に分類され、現行制度では輸出品に関税が課されていない。
こうした状況下、「シーイン」と「テム」は、米国での通関優遇措置(デミニミスルール)の撤廃に伴い、欧州での長期戦略を本格化する兆しだ。彼らが強いのは価格だけではない。商業・消費分野のコンサルタント、フレデリック・ブブリル氏は「シーインやテムは製造機能を持たず、提携工場に価格圧力をかけながら、自らは損失リスクを負わない構造を持つ」と分析。さらに、「政治的に安定し予測可能なEUは、米国よりも長期的な事業投資に適した土壌」とも指摘している。
この構造変化の影響を受けるのは、仏国内の中小ブランドや欧州サプライチェーンだ。仏衣料品業界は4月初旬に開かれた大統領府での会合で、政府に対し現実的な危機感を訴えた。供給過剰、さらにプラットフォーム主導の価格形成により、欧州ブランドは販売価格を引き下げざるを得ないという。
衣料品業界に詳しいリマンツール氏は仏ル・モンド紙で、貿易の地政学的転換を「衣料品の価格は米国で上昇し、欧州では下がる」と表現している。