第1回 無名ブランドがECを始めても売れるのか?
ファッション業界でも聞かない日がないビジネスワード、EC(電子商取引)。アパレル全体のEC比率も10%を超え、ネコも杓子もこのワードを口にしていますから、「自社も早く始めなくては!」と詳細もわからず参入しようとしていませんか?
※EC比率…ブランドの売上高に対するECの売上比率
この連載は、
・これからECを始めたいけど何をしたらいいかわからない
・EC担当してるけど実は詳細をわかっていない
という方の為にお届けしたい内容です。第一回目の授業は「無名ブランドがECを始めても売れるのか?」がテーマです。
弊社ではスタートアップブランド支援の案件を手がける事が多いのですが、ブランドを始めても急に売れたりしないのは、リアル店舗もECも同じです。むしろブランド認知が低い状況ではECの方が売れません。その理由を順を追ってご説明致します。
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スタートアップブランドのECってなぜ、売れないんでしょうか? これは、スタートアップブランドがどうやって売上や認知を上げていったのかを紐解くとわかりやすい。
ECがまだトレンドでなかった時代、ブランドはまず商業施設や競合店舗が立ち並ぶ人通りが多い場所に出店していました。その出店場所には既にその地域や施設に根付いたお客がある一定数おりますので、まずはその方たちに認知してもらえます。最初からその場所にいる多くの方にブランド名など覚えてもらえる事も無いでしょうけど、ふらっと立ち寄ってはもらえます。
お店に立ち寄ってもらえると商品の素材やシルエット、その製品のうんちくなどを販売員さんから聞いたり、自分の目で確認する事ができます。今でもリアル店舗がwebに勝っている部分はこの「情報量」です。そうして認知から徐々に興味・関心が湧き、購買に至る。商品の満足度が高ければファンになってもらえる。マーケティングでよく使われるところのAIDAやAIDMAの法則と同様ですね。
出店ハードルは低いも、埋もれる危険性大
ではこれがwebに置き換わるとどうなるんでしょうか? リアルでの商業施設、これがウェブで言うと「ECモール」です。路面店が「自社EC」で人の通る道は「検索」、もしくは「ソーシャルメディア」に置き換わります。百貨店やSCにふらっとお買い物に行く、これはZOZOTOWNやAmazon、楽天でお買い物する行為と同様です。Google検索したり、ソーシャルメディアで友人の近況確認をするのは、人々が街を出歩く事と同様だと考えてください。
ここまではリアルとwebに大差はありません。であればリアル店舗と同様、認知度が低いブランドはまずECモールに出店してユーザーに認知してもらい、徐々にブランドロイヤリティが向上してファンを獲得してから路面店(自社EC)を出店すればいいのでは?という解が出てきます。これは本質的にはとっても正しい。
しかしここで一つ問題が出てきます。それはウェブって出店できる範囲が無限にある事です。で、ブランドって結構な数があるからwebだと完全に埋もれちゃう訳です。
では埋もれないようにはどうしたら良いのでしょうか? webで出店する際、リアル以上にどうやってユーザーに認知してもらうかを前提に考えなければなりません。逆に言うと、認知してもらいやすいブランドを設計する事がまず求められるのです。
何故こんな事になるかと言いますと、例えば百貨店のような商業施設なら出店スペースに限界があります。だからより効率良く販売する為にバイヤーがブランドを厳選します。その為、出店のハードルが非常に高い。でもウェブって出店スペースが無限です。で、モール側からしたら出店してもらえればもらえるほど品揃え良くなるし、ページとしても強化される。だからどんどんブランドに出店してもらいたい。つまり出店のハードルが非常に低いのです(お金出せば出店できます)。
では、認知してもらいやすいブランド設計ってどういう事でしょうか? ソーシャルメディア上でよく拡散されているブランドを見た事はないでしょうか?最近だと有名なのはEVERLANEでしょうか。このブランドは「究極の透明性」を掲げ、生産工程やコスト構造を全てwebサイトで開示しています。これくらいわかりやすい付加価値があればweb上とはいえ、ソーシャル上で口コミで周り、認知してもらいやすい。
つまり、ECで売上を作るには客に認知されるブランドを作らないといけない。今の時代、お客さんの購買行動が変わっちゃって、冒頭でもお話した通りwebでの購買率が高くなっています。
だからといって安易に「webで販売すれば売れる」と勘違いしてはいけません。あなたの販売している商品が低価格品やコモディティ品であるなら話は別ですが、無数のブランドを容易に比較できてしまうweb上では、ブランドの付加価値が伝わっていないお客に対して圧倒的に無力なのです。
購買行動が変わってECが伸びているとはいえ、まだまだリアルの売り上げと逆転するには程遠い。同時に、webが売れるからと言って全体の売上高が伸びるかというと、そんな事もありません。市場全体を見たらリアルとwebはゼロサムで、ウェブの売り上げが上がればリアルは下がる。アパレル市場規模自体が伸びてる訳ではないのです。もちろん、他社がweb上で機会損失している間に、そのシェアを獲得し、先行者利益を上げている企業はたくさんありますが。
ブランドに付加価値があるか、その付加価値に潜在需要はあるか?
では、ECを始める前の「ブランド設計」で重要な点は何でしょうか? 後発でECを始めて売上を伸ばそうと思った時に大前提として考えなければならない事があります。
・自社のブランドは認知されやすい付加価値を持っているか?
・その付加価値に潜在的な需要があるか?
上記を問い続け、トライ&エラーを繰りかえす。これって実はブランドビジネスとして当たり前の事でもあります。しかし業界内にはここを設計せずECをスタートしているブランドが数多く散見されます。そしてこれが確立されていないと、webの大海で埋もれ、認知もされずに終わってしまいます。まずは埋もれない準備が一番重要なのです。
では次回は具体的に需要を生み出すにはどうしたらいいか?をお話していきたいと思います。
ふかじ・まさや ラグジュアリーブランドのリテール管理と全国セレクトショップへのホールセール担当を経て、起業。高級衣料品、ミセス、ヤングカジュアル、などの経験を基に、ファッションに特化したECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を展開。スタートアップブランドの支援を中心に活動。その傍ら、服飾専門学校の講師も務める。