ふかじ先生のWebマーケティング講座⑨(深地雅也)

2020/01/11 06:25 更新


売上を最大化する為の「卸」活用法

✳︎深地雅也さんの過去ブログはこちら

前回から随分時間が空いてしまい大変申し訳ありません。

前回は「自社ECと他社モールの使い分け」についてでしたが、今回は同じくチャネル戦略に当たる「卸」をどう活用するかについてです。


卸ってリアルでの施策だからECに関係無いのでは?

とお思いの方も多くいらっしゃる事でしょう。しかし、卸を上手く活用する事でECに良い影響をもたらす事は可能なのです。それでは成功事例をいくつか見ていきましょう。


○流通量の確保

自前で店舗を持とうと思うとイニシャルコストは莫大に跳ね上がります。店舗の内装コストに什器代、商業施設なら定借の初期費用、店頭を埋める為の商品コスト、ランニングでは販売員の人件費や家賃も発生しますね。

それに対して卸の場合、極端に言うとサンプル一本でビジネスが始められます。阿部千登勢さんのsacaiはニット3型からコレクションをスタートしたと言われていますし、それで受注が付くならリスクは非常に低い。

もちろん、納品してお金をもらう前に先に生産しないといけませんので、工場には生産の費用を支払う必要はありますが、店舗を出店するよりかはリスクが軽減されます。まずは卸先を拡大する事で流通量を増やし、ブランドを拡大していくという手法はまだまだ使えるかと思います。

問題は利益率ですね。掛け率は50~60%というケースが多いでしょうけど、製造原価率が仮に30%だとしたら、上代からの粗利率は20~30%程度(下代から40~50%)。リスクは低いですが利益率も非常に低いのでフロントエンドとして考えておく方が良いでしょう。流通を増やしてから、利益率を高める為にどう展開していくのか、その一つがECであると言えますね。


○流通量に伴う認知度の向上


流通が増えると当然ながら「認知度」が上がります。これ、ECにとって非常に重要です。こちらの連載でも何度も申し上げておりますが、結局売上と一番相関するのは認知度とブランドロイヤリティに他なりません。検索キーワードで「ブランドネーム」のボリュームが多ければ多いほどECでは売りやすい。

これはECに限らず、ブランドビジネスをやっていれば当然の事なのですが、何故かECでは忘れられがちです。Webを生業にする方々は、ここの「指名検索」の有無を無視して、単純にWeb広告でトラフィックを上げる事を進めたりしがちです。認知を上げるのに一番簡単なのはリアルでの施策ですし、卸を強化するといったチャネル戦略は、ブランドの指名検索を増やす方法の一つとしては機能しやすいのです。

例えば「ランドワーズ」というブランド、ZOZOを中心にECでの売上が伸びている事で話題になっていましたが、

得意先店舗一覧を見るとその理由は一目瞭然ですね。LAZA、ジョンブル、B2nd、TODAY’S SPECIAL、Liesseなどなど。全国展開している有名ショップが数多く名を連ねております。また地方の有力店である、JEANS FACTORY、PARIGOTも卸先ですね。つまり成功要因は、 「営業力」なので、卸で培われたブランド力を活かしECで売上を作っているという事です。


○時にはインフルエンサーからのUGCも

認知が上がってくると当然ファンが増えてきます。その中にはインフルエンサーが紛れている場合もあり、そこからUGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)が発生すると短期的な売上にも繋がります。

そういったきっかけが出来ると、今度はインフルエンサーを自社の展示会に招待しても良いでしょう。ブランドとインフルエンサーとの良好な関係構築にもつながりますし、今度はあらかじめ計算した企画を立てる事も可能になってきます。

そうする事で生産量や売上の予測もつきやすく、MD設計にも繋げていきやすくなります。インフルエンサーに限らず、UGCが自然に発生するというのは強いブランドの証拠でもあります。今度はそこから更にシェアされるような仕組みを作っていきましょう。


上記はデニムブランドのレッドカードのInstagramアカウントをタグ付けしているインフルエンサーの発信です。レッドカードはブランド特性上、ショップ展開にはやや不向きですが、これだけインフルエンサーに拡散されていますと自社ECでも売りやすいでしょう(PRのタグが付いていないので恐らくインフルエンサーマーケティングでは無いと推測します)。


○卸先からの拡散も期待できる

拡散してくれるのは何も一般ユーザーだけではありません。得意先も商品を仕入れたからには様々なところで拡散してくれます。それは卸先ショップのInstagramアカウントかもしれませんし、ショップブログ、得意先の販売員の個人アカウントかもしれません。得意先がECモールに出店している場合は、楽天やZOZO、Amazonでも販売される可能性も多いにあります。

このような経緯を経て、ブランドを検索した際に検索結果に様々なショップが表示されるという訳ですね。特に高感度セレクトショップに仕入れてもらう事ができれば、同時にロイヤリティも上がり、ブランドとしての信用力が一段と上がりやすいです。チェーン展開しているショップならその分、流通量も増えるし言う事無しですね。

卸に強みを持つブランドを見ていますと、ECモールだけで結構な売上が取れるからなのか、自社ECをあまり強化していなかったりします。それはそれで勿体ないのですが。


こちらはオーラリーの検索結果ですね。これだけ卸先が発信していると認知は自ずと上がります。ここからも「流通の確保」がいかに重要かがおわかり頂けるかと思います。

結局は、初期のブランド戦略において「どのチャネルを強化するか?」次第ですが、将来的にECを展開する事を見据えていれば、卸を活用する事にメリットはたくさんあります。

単純に「利益率が低い」だとか「営業が苦手」だとかで手をつけないのは勿体無いです。もちろん、卸を成功させるにも根本的な「商品力」は絶対必要です。デザインや企画が優れているからこそ、セレクトショップのバイヤーの目にも止まりますし、卸先も売れない商品なんて仕入れたくありません。ここの大前提を理解した上で、自社のチャネル戦略を構築していってもらえたらと思います。


ふかじ・まさや スタイルピックス代表。ラグジュアリーブランドのリテール管理と全国セレクトショップへのホールセール担当を経て、起業。高級衣料品、ミセス、ヤングカジュアル、などの経験を基に、ファッションに特化したECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を展開。スタートアップブランドの支援を中心に活動。その傍ら、服飾専門学校の講師も務める。販売員の為のメディアを運営。深地さんのツイッターフェイスブック



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