ふかじ先生のWebマーケティング講座⑩(深地雅也)

2020/02/28 06:00 更新


EC運営はMD設計に沿って実行する!

*深地雅也さんの過去ブログはこちら

本日はECの最大の課題についてお話したいと思います。

それは「消化率」に他なりません。EC担当者ならよくおわかりでしょうが、ECはプロパー消化率がリアル店舗と比較すると非常に悪い。これはECモールがクーポンやタイムセールを乱発するからであり、結局インターネット上の売れ行きに一番インパクトがあるのが「値引き」だからです。自社ECであろうとクーポン・セールを頻繁に提供しているブランドは多々見かけますし、在庫消化を促進しようと思えば一番簡単な方法でもあるのです。

また、オーダーの手法も在庫消化を悪化させる一因になっています。ECのオーダーはAmazonに代表される「ロングテール」という手法で、商品オーダーをしているブランドが多いでしょう。

「売れない商品」の山で売上げをアップさせる!? Amazonも活用しているロングテール戦略とは何か?

SKU数を最大化し、当たりが良いものは縦に積んで売るといった内容ですね。アパレルの生産リードタイムを考えると、当たりを見てから再生産という訳にはいきませんから予測は必要になりますが、型数を多く取るという事はその分、消化率は当然下がります。

店頭より消化率の低いECであれば尚更在庫がだぶつきやすいという事ですね。筆者も以前、自分が担当していたブランドがAmazonに出店する際に、そのオーダー手法に驚いたものです。ほとんどの品番を遠慮なく発注できるのも、委託での取引だからです。在庫が余ろうとモール側は知った事ではありませんから。

これらの理由から、プロパーで商品が売れにくいだけでなく、在庫も溜まりやすいのがECの一つの特徴と言えるでしょう。では、これをどうやって解決したらいいのか?について考えていきたいと思います。



自社ECはまだ満遍なく売れる

QR(クイックレスポンス)で商品を縦に売る事が肝となるECにおいて、比較的まだ満遍なく商品が売れるのは自社ECでしょう。それもそのはず、自社ECにはブランドユーザーの中でも特に濃いファンが集まりやすいからです。

逆にモールはお得感を求めてお買い物をするユーザーが多いので、クーポンやセール対象のブランドから商品を選択するケースが多々見られ、ブランド認知が無いまま商品を購入しているユーザーも多くいるのではないかと推測されます。

ロイヤリティが高いのはブランドではなく、あくまでモール側という事ですね。しかし、弊社では自社ECでもどう消化率を上げていけばいいのか?という相談が後を絶ちません。そして、こういった企業の内情をよくよく聞いておりますと、問題はECの施策とは別のところにあるのがわかってきます。

ECで抜け落ちやすい「MD」の要素

オンライン専業の企業によくありがちなのですが、オーダーする際に全くロジックがないまま実行してしまうケースをよく見かけます。オーダーした後、在庫をどう売ろうか考え始めるので、コーディネートも付け焼き刃、販促計画も後手後手なので取ってつけたような内容になりがちです。

もっと言ってしまうと、「ブランドコンセプト」や「アイコンアイテム」に無頓着で、何を根幹に置いたブランドなのかが不明瞭のまま走ってしまっている事もよく見られるのです。この状態では売上予測を立てるのが困難になり、最終的に在庫を捌くためにはセールを継続していくしかなくなってしまいます。

実際は順番が全く逆で、コンセプトに基づいたMD設計を作り、その計画に連動した商品アップや販促企画、コンテンツ制作が求められます。

エムズ商品計画

繊研新聞でおなじみのマサ佐藤先生の資料をお借りしてきました。こういった計画表がアパレルには存在するのですが、中小規模の企業やオンライン専業の会社はそのノウハウが無く、売上対策は「セール」「Web広告」「インフルエンサーマーケティング」に偏重しがちです。これでは根本の解決にはなりにくく、結果セールをしないと消化が難しい。販促やコンテンツの効果を最大化したいのであれば、その前段階で製品戦略と品揃え計画が必要なのです。

モールはSKU数が命?

ECモールでは、商品を色やアイテムなどでセグメントして検索しますが、2ページ目以降に出てくる商品のCVR(コンバージョンレート)は著しく落ちます。上位表示させる為の手段としては「広告」「安価な価格設定」「SKU数の増加」です。

こういったアルゴリズムの為、ブランド側は消化率が落ちてもSKU数を増やさざるを得ず、またセール乱発かクーポンによる誘導に偏重するのです。プラットフォームに生殺与奪権を握られると、プラットフォームのルール内で生きていかなければなりませんから致し方ないかもしれませんが。

大手アパレルはアウトレットを複数保有しているケースも少なくないので、最悪余った在庫はアウトレット行きです。ここでも結局消化の手段は「値引き」になります。ただ、ブランドとしてはアウトレットを一度出店すると、アウトレットにも予算が決められますから、その売上を取る為には潤沢な在庫があるのは助かる事もあるのです。いいか悪いかよくわかりませんね。


最近ではECモールをアウトレット的に使うブランドが増えてきました。プロパー期間中にMAX90%OFFと題して行われるタイムセールなどは、まさしくそれに当てはまります。新作をプロパー期間中に90%OFFに出来る訳がありませんから、そのタイミングで出品されるのはブランドの不良在庫です。

セール時はトラフィックが格段に上がるので、そのタイミングで不良在庫を捌くのは合理的でしょう。プロパーは自社で、不良在庫はモールで、と上手く使い分ける事ができれば理想的ですね。

やや話が逸れてしまいましたが、ECだろうと実店舗だろうと、商品を売る為に大事な事は何も変わりません。むしろ、実店舗の際にMDを重視しているのに、ECになった途端そこがおざなりになる意味がわかりません。アパレルEC支援をしている外注の方々が、アパレルの小売について無知だからというのも理由の1つでしょうか。

ECも実店舗もチャネルの1つでしかなく、全体のブランド戦略から紐解いたMD設計に沿って運営するだけなのです。現場のEC担当者はWebの専門用語に踊らされ、煙に巻かれる事なく、自社の計画に沿って運営して頂ければと思います。


ふかじ・まさや スタイルピックス代表。ラグジュアリーブランドのリテール管理と全国セレクトショップへのホールセール担当を経て、起業。高級衣料品、ミセス、ヤングカジュアル、などの経験を基に、ファッションに特化したECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を展開。スタートアップブランドの支援を中心に活動。その傍ら、服飾専門学校の講師も務める。販売員の為のメディアを運営。深地さんのツイッターフェイスブック



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