ふかじ先生のWebマーケティング講座⑫(深地雅也)

2020/10/13 06:00 更新


ECは新規獲得が難しい?

EC運用において、最もブランド側の認識が間違っているのがこちらの「新規獲得」についてではないでしょうか。

前回の記事ではEC施策の「優先順位」について書かせて頂きましたが、皆様が思っているほど新規獲得の優先度は高くありません。理由は簡単で、ECでは新規獲得の方が費用がかかりやすく、且つすぐ売上に直結しづらい課題だからです。

*深地雅也さんの過去ブログ

◼️一番簡単なのは実店舗活用

ECと聞くとWeb上で完結しなければならないと思っている方が今もいらっしゃいますが、Web上だけでファンを獲得しようとするからハードルが上がるのです。


一番簡単にファン獲得できる場所はWebではなく実店舗です。多くの方々にブランドを認知したきっかけを聞いてみてください。その多くは「お店」次いで「知人・家族からの紹介」、所謂口コミです。ですから、店舗のあるブランドは新規獲得に店舗を活用した方が効率的なのです。

では新規獲得においてWebに出来る事は無いのか?と言われるとそんな事はありません。店舗のあるブランドは、Webを訪れたユーザーに対しまずは店頭送客を促すようなコンテンツを用意してあげるのが実は近道です。

館の優待、店頭で実施しているサービス・店頭販促などなど。実はプッシュできるポイントがたくさんあるにも関わらず、徹底出来ていないブランドが多い。「ブランド名 店舗」といったキーワード検索も多く、ブランドを認知していてもECを活用した事がないユーザーに「情報が網羅されている」と思ってもらう事が大事なのです。ソーシャルメディアと合わせて、まずは店頭送客をメインに実行してみましょう。

逆に実店舗では、訪れたユーザーにしっかりとブランドネームをお伝えする接客を徹底する事で、その後「指名検索」に繋がる事もあります。ですから、店頭ではショップカードなどを用いてソーシャルアカウントを含め、ブランドを認知してもらいましょう。店頭で気に入った商品があったお客様からの指名検索を狙えます。

◼️メディア掲載はブランド属性をしっかり考えて

過去、ファッション業界におけるブランドの認知は店頭以外だと「雑誌」がメインでした。しかし、ソーシャルメディア全盛の今の時代、雑誌の発刊部数に陰りが見え、広告としての機能は過去と比較すると弱くなったと言わざるをえません。

ファッションブランドの出稿自体が無くなった訳ではありませんが、キムタクが着用して雑誌に出れば商品が完売…、なんていう時代はもう帰って来ないのです。一定の効果はまだ見えますが、古いファッション業界人が期待するほどではありません。


紙媒体に情報を掲載する場合、Webにも同時に掲載する事もあるでしょう。実行するには数百万円の費用がかかり、掲載するからにはそれなりの結果が求められるはずです。

しかし、Web掲載からの効果検証が現場で適切に行われない事も多く、蓋を開けてみたらReferralからの流入も大した事がなく、指名検索も増えていないなんて事はよくあります。Webに掲載するコンテンツ次第なところもありますが、このように費用対効果がめちゃくちゃ悪いケースもちらほら見かけますね。体感では、紙媒体を見て検索行動を起こすユーザーの方が実際の売上に繋がっている印象があります。

紙媒体を出版しない、Web発のメディアはブランド属性とメディアコンセプトがマッチすれば一定の効果を発揮していますので活用してみても良いでしょう。費用も紙媒体と比較するとお安いところもある割りにUGCが発生しやすかったりします。

Webメディアを訪れるユーザーが普段からWebをメインで見ているユーザーだから、というのもあるのかもしれませんね。メディア自体のファンのエンゲージメントが高い事も重要な指標です。Webメディアは玉石混交なので、なるべくコンセプト・世界観がしっかり確立されていて、尚且つブランドと親和性の高いところを選択しましょう。

Referral … 他サイトからの流入を指します
UGC…ユーザー生成コンテンツ。Web上の口コミやソーシャルの個人の投稿などがこれに当たります

◼️EC支援会社がよく提案するパターン

EC支援会社がよく提案するのがGoogleのリスティング・ディスプレイ広告。知名度のあるブランドなら当然ながら検索は増えますので、広告をクリックして購買に至るケースも多いでしょう。


ディスプレイ広告はリターゲティング中心、つまり過去にブランドのWebサイトを訪れた事のあるユーザーに広告を見せる手法がよく使われるので、既に興味関心のあるユーザーからの購買を促す分、CVRは上がりやすいケースもあります。まだ会員登録していなかったユーザーからの購買もあり、表面上は新規獲得出来ているように見えますね。

 CVR…コンバージョンレート。ここでは流入に対する買い上げ率を指します

しかしこれを継続しているサイトは、新規セッション率がどんどん下落します。つまり、リタゲ一辺倒では成長が鈍化してしまう可能性が高い。

リスティング ・ディスプレイ広告自体を非難する訳ではありませんが、ファッションブランドの運営においてそれほど新規獲得に費用対効果が高いかと言われると疑問です。特に認知が無いブランドが仕掛けて失敗しているケースをよく見ますので取り扱いには注意が必要です。

◼️Web上での新規獲得はソーシャルメディア

Webの活用メインで新規獲得をしたいのであれば、ソーシャルメディアが一番でしょう。ファッションブランドの場合、特にInstagramですね。ただ、こちらも過去使われた手法がどんどん使えなくなってきています。

例えば、Instagramのインフルエンサーを活用した、インフルエンサーマーケティング。インフルエンサーのファンにそのままブランドを認知させるのに効果的だったのですが、中身を全く考えずにやってしまうと失敗するケースが散見されるようになりました。

その一つがギフティングという手法ですね。ダニエルウェリントンという時計ブランドがよくやっていた手法で、フォロワーの多いユーザーに対してDMを送り、商品をプレゼントして着用画像を投稿してもらう、という流れ。結構な数のブランドがまだこのような手法を取っていますし、中にはギフティングだけでなくお金を支払ってポストしてもらうケースもあるでしょう。

しかしこの手法が今や効果が弱くなってきています。ブランド側も誰彼構わずやってしまった結果、消費者も当然これに気付き始めています。

またインフルエンサーも玉石混交で、フォロワーは多いが物を売るのには影響力が無い人もいれば、フォロワー自体を買っている人もいますので精査が必要。Webメディアと状況が一緒ですね。結果、費用対効果が合わないケースが多発しているという事です。

PixieMe / Shutterstock.com

そんな中、活用しやすいのがInstagram広告でしょうか。普段の投稿の質は求められるものの、カスタムオーディエンスの絞り込み方次第で、ターゲティングの精度を上げる事が可能です。投資額が小さくとも効果が上がるケースがよく見られます。

筆者の周りの若者でも、「広告からブランドを認知した」「ファンになった」という声が多く、広告とわかっていても特に抵抗が無い様子です。実体のあるフォロワーを見込み客として広告から獲得し、ストーリーズの投稿含めてファンを育成していく、といったフローですね。

費用対効果も良く、Web上での顧客獲得単価が格段に落ちた印象があります。こういった事が可能になってきたからこそ、D2Cと言われるブランドがたくさん生まれたのではないかと。

認知拡大と指名検索増加を考えますとTwitterも使えるツールですが、いまいち活用しているブランドは少ないですね。Instagramと違い、文字を使ってのコンテンツ制作が必要になってくるので苦手意識があるのでしょうか。記事コンテンツと相性が良いので、URLの拡散時には是非使いたいですね。ブランド名が拡散されれば指名検索増加にも寄与します。

ECがこれだけ持て囃されている背景には「実店舗より販管費が削れる」からという理由があるでしょう。しかし、既に店舗もたくさんあってブランド認知が進んでいた小売大手がECを始めたら誰がやったって大きな売上が獲得できます。何せ、顧客獲得コストを考えなくて良かったのですから。

しかし成長率が鈍化してくれば、否応無しに新規獲得が求められます。その時の為に、今のうちからしっかりと準備しておき、どの施策が新規獲得に効果的なのかをちゃんと見極めておきましょう。


ふかじ・まさや スタイルピックス代表。ラグジュアリーブランドのリテール管理と全国セレクトショップへのホールセール担当を経て、起業。高級衣料品、ミセス、ヤングカジュアル、などの経験を基に、ファッションに特化したECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を展開。スタートアップブランドの支援を中心に活動。その傍ら、服飾専門学校の講師も務める。販売員の為のメディアを運営。深地さんのツイッターフェイスブック



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