20年春夏にデビューした「ハイムクンフト」は、スタイリストで衣装デザイナーの井口さおりが手掛けるレディスウェアだ。衣装作りの延長で、色やシルエットの変化を丁寧に表現し、装う楽しさを語るクリエイションに魅力がある。友人の写真家やヘアスタイリストとともに制作するビジュアルの伝え方も大事にしている。
「クラシックなものが好き」という井口。若いころから愛着を持つビンテージの古着の要素を取り入れつつ、モダンなフォルムを作り上げる。ブランド名はドイツ語の「生まれたところに帰る」に由来し、「時代を超えた普遍性、また着たくなる服を形にしていきたい」という。余計な装飾はそぎ落とす一方、風合いのきれいな生地をふんだんに使って、大人のエレガンスを際立たせている。
秋冬は、メンズライクなムードのコートが目を引く。楕円(だえん)状のパターンを折り返したポンチョ型コート(13万円)は、肩周りに円形の布を折り返すように取り付けてトレンチ風に見せる。表地と裏地で異なる色が重なり合うようにドレープを作り、品のある女性らしさを印象付ける。光沢のきれいなベルベットのコート(12万円)は、フレンチスリーブの本体と、ベルベットの袖が付いたライナーとのセットアップ仕様。本体はテーラード仕立ての襟が付いて、ジャンパースカートのように単品の着用も可能だ。
井口は量産の服作りの経験はなく、パターンの規制にとらわれず独自のシルエットを作り出す発想の豊かさがある。ジョドパーズ風のパンツ(3万5000円)には、ダーツではなく、ウエストの中央にひだを寄せて、サイドにドレープラインを流し、柔らかなボリュームを出した。