尾州産地で完結する物作り 「ホーク」デザイナーの山本洋一郎さんが大切にしていること

2023/04/12 12:30 更新


山本洋一郎さん(左)とスタッフの高崎幾巳さん

 田んぼに囲まれた愛知県一宮市のアトリエで、製作活動する山本洋一郎さん。車で30分圏内に機屋、縫製工場、染色工場があり、小さいエリアで物作りが完結できるとして、尾州産地に位置するこの場所を選んだ。アパレルブランド「holk」(ホーク)を立ち上げて5年。年齢、性別を超えた普遍的な服を生み出している。

(小坂麻里子)

5年、10年着られる

 山本さんの実家は、愛知県豊川市で縫製工場を営んでいる。小さいころから糸やミシンに囲まれて育ち、自然と服やプロダクトが好きになり、学校ではグラフィックを学んだ。その後は商社や雑貨の卸売り業、セレクトショップのバイヤーなどを経験し、素材や製品を学んだ。

名古屋市の直営店は土日のみの営業

 特に米国や欧州の古いユニフォームや制服に影響を受けた。また、日本の衣装は多様な人々の装いに適応する平面裁断の羽織りが中心であることに注目。年齢や性別に縛られないデザインの服を作りたいと思うようになった。18年に当時勤めていた会社から独立し、自身のイメージを追求したブランド、ホークを立ち上げた。

 ホークはジャケットやシャツなどベーシックなアイテムが中心で、形は基本的に変えない。同じ形の服に少しずつ手を加えたり、そぎ落としたりしながら5年、10年と長い間着られるデザイン、カッティングを意識する。ブランドの客層は20~80代と幅広い。例えば東京・巣鴨の卸先では60~80代のハイミセスが顧客。名古屋市にある直営の店舗では20~50代が中心に来店する。

ジャケット、シャツなどベーシックなアイテムが並ぶ

着想は散歩中の老夫婦

 デザインの発想源はアトリエ周辺の散歩だという。「おじいさんやおばあさんが着ているものはかっこいい。さっと散歩に着るような、使い込まれた服の雰囲気が良い」と話す。千鳥格子のコートは製品後に縮絨(しゅくじゅう)加工をかけ、約15%縮ませている。しわで着込んだような雰囲気を出した。税抜き7万6000円。山本さんにとっての普段着の適正価格を意識する。

縮絨加工を施したコートは約15%縮むことを想定してデザインしている

 国内産地には機屋や整理加工の高い技術がある。例えば、市内にある尾西生涯学習センター墨会館では、縮絨や染色などの加工技術の高さを知った。尾州や遠州、播州など産地で培ったローカルなコミュニティーを大切にしながら服を作っている。

「販売だけでなく、服作りの技術を身に付けてほしい」との思いから、直営店舗スタッフの高崎幾巳さんには縫製技術を学ぶよう勧めた。5年目になる高崎さんは店舗勤務の日以外、縫製工場で縫製を学ぶ。「簡単に消費されないブランドでありたい」。職人から技術を学びながら、後世に残る服作りに取り組んでいる。



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