オランダの「フックドゥ・ズパゲッティ」 繊維くずを価値ある商品へ
オランダの「フックドゥ・ズパゲッティ」がハンドメイド好きな女性たちの間で人気だ。フックドゥ・ズパゲッティとは、Tシャツなどカットソーアイテムに使われる丸編みを裁断した後に出る端切れを集めてアップサイクルした手芸用の糸ブランド。多様な色、柄のユニークな糸がユーザーの創作意欲を刺激している。創業者はアパレル業界とは無縁だったヘイシュ・モシースさん。生産現場で当たり前のように廃棄されてきた大量の繊維くずを価値ある商品に変えた。
■日本ではすぐ完売
主力商品はTシャツ用の丸編みの端切れをそのまま使った糸玉。120㍍巻きで1800円。端切れなので糸というより、テープのような扁平(へんぺい)状の形が特徴で、太番手の毛糸を用いた編み地よりも粗い編み目になり、個性的な仕上がりになる。傷があるなどでそのまま使えない端切れも再利用している。端切れをシュレッダーにかけて再び紡績し、ニットテープや杢糸に生まれ変わらせている。
日本では13年からディー・エム・シー(東京)が輸入販売を始め、当初は販売店舗数10、販売玉数は4000だった。糸にはつなぎ目、結び目、穴あきなど、端切れの再利用商品ならではの特徴があるため、扱う手芸店はわずか。一方で、手芸愛好者は従来の手芸用糸にはない独特の個性に注目した。このため、14年には60店、9800玉、15年に350店、5万1000玉へと販売規模は飛躍的に拡大し、今では入荷すればすぐ完売する売り場も多い。16年は500店で14万玉の販売を見込んでいる。
■多彩な端切れに関心持つ
フックドゥ・ズパゲッティを製造販売するフックドゥの創業は07年。モシースさんは大学で行政学を学び、行政機関とIT(情報技術)企業の両方でキャリアを積んできた人物で、アパレル業界は未経験だった。
そんなモシースさんは、たまたま仕事でポルトガルの紡績・丸編み工場を訪問する機会があった。生産現場を見て知ったことは、端切れなど大量の繊維くずが捨てられているという事実。廃棄されているとはいえ、端切れは汚れた物ではない。色々な編み地の端切れのため、カラフルできれいだったことに関心を持ったモシースさんは「端切れをアップサイクルして、その多彩さを生かして何かできないものか」と思い、立ち上がった。
フックドゥ・ズパゲッティのアイデアは、工場で働く女性がTシャツを自ら裂いた端切れを使い、かぎ針で編んで作った玄関マットを見てひらめいたという。モシースさんは集めた端切れを色ごとに選別して束ね、試しに編んでみると、扁平状の端切れは通常の糸よりも表面積が広く「素人でも短時間である程度の形を作ることができるとわかった」という。
ガレージで起業したモシースさんに訪れた転機は08年に出展した見本市だった。糸玉三つとかぎ針、説明書を入れたハンドメイドキットを出品したところ、準備した1500個が完売。市場から注目を浴びるきっかけとなり、各種メディアでの露出が増えていった。「簡単で早く作れる」ことが支持を広げたポイントで、手芸愛好者以外の目にも留まり、販路は2、3年で欧州をはじめ、他地域にも一気に広がった。
拠点をハーグ市の中心部に移し、ポルトガルには自社のリサイクルセンターを設立した。そこに欧州の複数のテキスタイル工場から買い上げた繊維くずを集めて選別、加工して商品化し梱包(こんぽう)している。素材の選別から生産管理まで内製化することで、「素材のトレーサビリティー(履歴管理)と品質管理、および公正な労働環境の管理に努めている」という。
■イベントでファンづくり
同ブランドが急速に知名度を上げた理由は商品のユニークさと手軽さに加え、販促活動の効果も大きい。起業当初から卸し先である手芸用品店や本屋などでワークショップを繰り返し開いてきた。短時間で作れるアイテムも多く、1回1時間の少人数イベントを数日間で複数回開き、効率良く体験者を増やして着実にファンを広げている。
手芸の世界では愛好者が物を作る時に作り方を図解して紹介する書籍を参考にすることは少なくない。著名な作家が監修した書籍なら注目されやすくなる。フックドゥ・ズパゲッティの場合は、フィンランドのヘルシンキを拠点に活動するニットデザイナー、モラ・ミルズさんが良きパートナー。ミルズさんはモダンなかぎ針編みを紹介する人気書籍の著者で、書籍にはフックドゥ・ズパゲッティが登場する。基本技術や独自の新しい手法を説明するとともに、アクセサリーやラグマット、アパレルなどの作り方を披露。13年に第1弾を発刊し、現在第3弾まで出ており、英語圏やスペイン語圏を中心に販売している。