クロシェHD沼部代表取締役に聞く 過剰生産、大量廃棄の流れ変える

2020/07/26 06:27 更新


 「ジャスミンスピークス」などレディスアパレル、靴製造販売のクロシェ(神戸市)は24年までに受注生産販売比率を80%に高めることにした。地球環境を守るためには、過剰生産、大量廃棄という流れを断ち切り、新しい循環を作るしかないと判断したためだ。衣料品の焼却や廃棄が社会問題となる中、ファッション産業が変わるのは今しかないと不退転の姿勢を見せるクロシェホールディングスの沼部美由紀代表取締役に聞いた。

(古川富雄)

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消費者に還元する

 ――24年受注生産比率80%を掲げたのは。

 一番の核心は地球をきれいにしたいということです。アパレル産業が地球環境を汚していると認識したうえで、私たちにできることは何かと考えると、過剰生産にならない受注生産になる。買っていただくのはお客様ですから、お互いに考えていこうと思っています。

 ――きっかけは。

 もともと20年年頭から各事業部にサステイナブル(持続可能性)を考えるように指示していました。コロナにより具体化しませんでしたが、私自身は2月末頃から考え始めました。テレワークでオフィスが閑散としていた緊急事態宣言の中、会社の窓から見えた青空がとてもきれいだったんです。ツイッターを見ると、世界中空気も海もきれいになっているということが載っていて、ちょっと工場が止まるだけでここまできれいになるのかと思いました。

 アパレル企業は売れる確証もないまま、大量生産するサイクルを繰り返します。半分ほどが売れずに残り、売れてもセールなど正常ではない販売が多い。業界の悪習というか、在庫があると安くして売ってしまえとなるんです。

 ――受注生産のメリットは。

 一つは地球がきれいになる。二つ目は私たちはセールをしなくなるし、在庫リスクが軽減されます。アパレルの値段って、ほぼ在庫リスク分じゃないですか。クロシェは商品の廃棄率は7、8%くらいで多くはありません。バレエシューズのように定番化しているものもありますから。三つ目は在庫を持たない分、お客様に(価格面で)還元できることです。

 ――各販路で変えることは。

 百貨店での期間限定店は年間約200回開いており、これが一番問題でした。受注生産だとイベント中にお渡しできません。事務手続きは大変ですが、デパートも変わろうとしているのか、協力してくれるところが出てきています。それでも期間限定店は一定在庫が必要なので、24年に80%としているわけです。

 もう一つの問題が生産のミニマムです。例えばミニマムが30着の場合、ライブ配信で8着しか売れなくても30着を作る必要があります。そうしないと工場を苦しめることになるので、知名度を上げなければいけません。

 卸売りは一時やめようと思ったこともあります。今、考えているのは卸先の店舗で期間限定店をする取り組みです。期限を区切ってオーダーをとってもらい、まとめて生産する。受注生産に協力していただけるところも出てきています。

 ――消費者への伝え方は。

 これはスタッフがお客様に1人ずつ伝えるしかないと思っています。インスタライブで300人ほどに「地球環境のため1カ月待てますか」とアンケートしたところ、80%の人が「待てます」と答え、うまくやれば行けるという気がしました。

 隣の店が1万円で売っているものをうちは7000円で売れるのが勝てるポイントです。いずれにしても 小さなことからこつこつと啓蒙(けいもう)していくしかないですね。待ってもらう1カ月間はワクワクして待ってもらう期間にするよう、いろいろな情報を提供します。

ライブ配信販売が軸

 ――新たな販売方法は。

 目玉はライブ配信です。直営店はECを伸ばすためのショールームにしていきます。不必要な店はなくしていくので、店は減ります。ただ、店がなくなると販売員の雇用ができなくなり、これが一番痛いです。5年後、10年後を考え、4月下旬からライブ配信を始めました。十分にやり取りはできますし、テレビショッピングと同じように商品の魅力も伝えられます。直営店休業中は販売員全員が強制的にライブ配信に出ることにしました。苦手という人もいますが、時代には逆らえません。ウィズコロナで今までの接客はリスクがあり、嫌がるお客様もいます。画面を通すのが正解と思います。

 ――1社だけでない取り組みが求められる。

 私はアパレルの知り合いがあまり多くないのですが、地球環境のことをいう人は少ないように思います。でもコロナでいったんぐちゃぐちゃというか、ゼロベースになりました。ファッションビジネスは海外のファッションショーから始まり、逃れられないルーチンに巻き込まれていました。今、考えないと変われないのではないでしょうか。

沼部美由紀クロシェホールディングス代表取締役

(繊研新聞本紙20年7月3日付)

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