【記者の目】注目高まるフェムテック・フェムケア タブーから“語っていい”に

2022/11/23 06:28 更新


フェムテック・フェムケア関連の合同展は、小売店のバイヤーや美容業界の関係者のほか、一般の来場も呼び込み盛況だ

 21年の新語・流行語大賞にノミネートされ、繊維・ファッション業界では今年が「元年」とも呼べるほど話題が豊富なのが、フェムテック・フェムケアの領域。繊維製品では吸水ショーツや月経カップに代表される、月経関連商品の話題が先行している。スタートアップ企業に続き、ユニクロやジーユーなどの大手ブランド、インナーブランド、異業種も含めて開発・参入が活発だ。新しい市場というだけでなく、女性の課題を解決して女性が活躍しやすい社会を作ることが、企業や国の成長ドライブとしても期待されている。

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話題にしやすく

 フェムテック・フェムケアが対象とする領域は広い。月経、妊娠・不妊、出産、更年期、婦人科疾患、セクシャルウェルネスと多岐にわたる。

 決して新しい問題ではないが、フェムテック・フェムケアという言葉が市民権を得たことで、「タブー視」もしくは「こっそり話す」問題だったものが、「語っても良い」話題となりつつある。関連する新規の製品やサービスがメディアで大きく取り上げられ、生理用品が満足に入手できない「生理の貧困」もニュースとなっている。

 繊維・ファッションによる女性の健康サポートという面では、肌に密着したアイテムを作るインナーやレッグウェアメーカーに一日の長がある。

 今月、フェムケアのポータルサイトを新設したワコールは、創業以来、女性の体の研究やそのデータに基づく商品開発、乳がんの啓発、オウンドメディアを通じた情報発信を継続してきた。企業活動そのものがフェムケアと呼べる。ポータルサイトとして整理することで、改めて女性の体と心に寄り添う企業としてのメッセージ発信が強まりそうだ。

 インナー業界と同じくフェムケア関連の開発が活発なのがレッグウェア業界。砂山靴下は早くから医師や健康・スポーツの専門家と組み、冷えや睡眠、姿勢などを改善し、健康をサポートする商品を展開してきた。ナイガイ、福助、アツギなどレッグ主力メーカーも、商品開発や新規プロジェクトの立ち上げ、合同展の出展など、今後の成長分野として投資を強めている。

 アパレルメーカーも動き出した。10月に東京で開かれたフェムテックフェスには、オンワード樫山が心身を整えるセルフマネジメントインナーウェア「トトン」で出展した。これまでは見せる服や着飾る服を主軸としてきたが、「衣服・繊維の力で課題を解決し、健やかな生活をサポートする」という視点で機能商品開発を手掛け始めている。

更年期に注目

 矢野経済研究所の調査によると、フェムケア・フェムテックの消費財・サービスの20年の市場規模は約600億円という。月経や妊娠・不妊・産後ケアの分野が先行しているが、今後は更年期やセクシャルウェルネスなど、女性特有の悩みや健康課題が顕在化すると考えられると見る。

 別の視点として、経済産業省の調査も興味深い。25年時点の日本のフェムテックによる経済効果を年間2兆円と試算している。これは月経に伴う症状や不妊治療、更年期に伴う症状により、離職や昇進辞退、勤務形態の変更を余儀なくされた女性が、フェムテックのサービス・製品の利用で仕事との両立を果たすことで得られる給与相当額を推計した額。女性の健康課題の解決は、女性活躍や人手不足などの社会課題の解決にもつながる。

トレンドではなく

 フェムテック・フェムケアを通じて女性特有の健康課題が解決に近づくことは、家庭や地域、企業、産業、国など、どのレベルで見てもポジティブな影響をもたらす。

 懸念されるのは、フェムテックを数年前のサステイナビリティー(持続可能性)のように、トレンドとしてとらえる向きがあることだ。

 半年や1年ごとに設定するトレンドテーマとは異なり、サステイナビリティーもフェムテックも、一朝一夕に成果が目に見えるものではない。SDGs(持続可能な開発目標)の目標5「ジェンダー平等を実現しよう」や目標3「すべての人に健康と福祉を」に直結する問題であり、「誰一人取り残さない」社会作りや「多様性」という面も担う。提供する製品やサービスがもたらす未来を主眼にゴールを設定し、長期的な課題として取り組まれることを願う。


壁田知佳子=本社編集部・レディスウェア、インナー・レッグウェア担当

(繊研新聞本紙22年10月24日付)

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